Raad to 甲子園ボウル:ニュース
トピックス 2014.12.20

「日大、奮闘の末に」 ―その敗退がもたらしたもの―

今度こそはと、ここまで入念に調整を重ねてきた日大。しかし前年と同様に敗戦となった。しかもスコアは10-55の大差である。そこに残るのは一遍の空しさだけ。

なぜ、このようなゲームになったのだろう。勝負はTD2本ないしは3本で、キックの差くらいの接戦になるのでは、という予想があった。なぜなら日々猛烈なトレーニングを手掛ける日大と、確かな戦略を有する関学の対決だからだ。それはもうシリアスな闘いになるであろうと。

立ち上がり、日大は意表を突きQB西澤を先発に据えた。甲子園にざわめきが起こる。

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「西澤をスターターにする。それで最初にベンチに控えるQB高橋が、冷静に相手守備を分析してくれる。そこからの躍動に期待したい」。大ベテランの名将・内田監督が語る。

その相手の裏をかく戦術は成功したかに見えた。しかし、俊敏さで定評のあるエースWR岩松と西村に頼みのパスがうまくとおらない。

関学の鋭く強いDLラッシュに対して、QB西澤と高橋は、ともすると後傾姿勢になり、そこから投じられるボールにいつもの勢いがない。時にそれは浮き球となり、幾度となくインターセプトを喫する。しかも関学DBはつかず離れずの絶妙なマークで、カットで突き放しても、するりとそばに寄ってくる。 

新鋭WRブロンソンは、それでもバネのあるキャッチで見せ場を作ったが、TDには至らず。あるいは、パワーあふれる大型TE水野も巧みに抑えられ、さらには怒涛の突破力があるRB高口も止められた。打開しようにも、これぞという手が打てないのだ。


入念なまでの戦力分析と、日大の選手個々の動きを把握、その対応を綿密に施した関学。

前半の流れでいえば、日大10-31関学というTD3本差は、頑張りの上でカバーできる範囲だと、ハーフタイムにアジャストの指示があるはずであった。後半の競り合いへ持ち込むために。可能性はありだ、との。


しかし後半になっても、関学はさらに迫力を増し、日大DLをコントロールするOLに加えて、アスリートRB二人の快走でTDを重ねていく。また4Qには、バックアップQBまでもが、フィールドを走り回る状況に。

「DLのプレッシャーがあったのでロールアウトのパスなどを狙っていきたかったのですが、追い込まれて。ロングパスを決めていかないと勝つのは難しい...」。

強肩高橋のロングボムはインターセプトされないように、ややオーバー気味に投げられ、レシーバーの伸ばした手の先へ、寂しそうに落ち、そして跳ねていく。

若きQB高橋は、左オプションキープでの1TDの結果に終わった。

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ここまで強固といわれていた守備では、中央を簡単に割られてTDランを浴び、後手に回る。DLとLBも守勢にまわり、じりじりと後退していった。

「我々はチャレンジャーですから、思い切ってやらなければ。つねに仕掛けていくのです。それがセオリー。しかし、それすらやれずに終わった」。内田監督は静かに語る。

ランプレーを軸に、TD7本。さらに2FGで、なんと55得点を奪われた日大。

「チームは、基本となる一体感を持ってしっかりと作ってきたつもりでした。ただ、攻撃も守備も関学が一枚上だった、ということです」。気丈に主将DL宮田が言う。

「RB28や、RB40を止めるという作戦はしっかりと練り上げられていました。きっとそれ以上だったのかと、なんともいえないですが...」。守備の要であるLB佐藤が答える。

組織力があり、天性あふれるフットボールの日大。毎日のタフな練習において、繰り返しの大切さを学び、身体の反応を研ぎ澄ます。いつも甲子園における赤の日大、その存在感は圧倒的なものがあった。

「見ての通り、数字通りの結果。すぐにでも新しいチャレンジをする」。明日を見据えた内田監督である。

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ただ、最初からそこに何かが違っているという違和感はあった。

日大はこんなに鈍そうなチームではないはずだ。試合前練習から、どこかもったりとした空気に包まれて、きびきびとした動作はできるのであろうが、また気持ちは充分に入れ込んでいるのであろうが、身体がいうことを効かないがごとく。

勝負に万全な力を持って臨むのは基本であり、そういった言い訳じみたことはけっして許されない。しかし現実に、この所作は本当にあの日大なのだろうか?

「明日からとことんやります。足りなければもっとやります。それだけです」。終始、潔い口ぶりの内田監督だった。

選手たちは、まるで棒のようになった身体のことを一言も漏らさず、もしかすると、それは対峙した関学の選手たちも感じていたのではあるまいか。


とすれば、話は簡単である。今季はTOP8の全試合を間近で見てきた。それだけに想い、感じてしまうことがある。

前評判の高かったチームは、負傷者が増えるとともに全敗、BIG8との入替戦にも負けてしまった。横浜スタジアムでのリーグ優勝を決める試合は、1本のFG差であった。常にタフな試合の連続で、ひとときも気を抜けず、フィールドには一種の疲労感と疲弊が充満していた。

それは新設されたTOKYO BOWLに於いても然り。ならばそう、あと2、3年の『慣れ』がそれを解決すると。厳しいリーグ戦を勝ち抜いて挑む、甲子園ボウルの覇者への道だ。年間を通したチーム作りのプランがリアルに見えてくる。

新編成初年度の学生リーグには、もうしばらくの醸成期間が必要となる。

身体を鍛え上げることはできる。精神面の鍛錬やメンタルセラピストの存在も重要ではあろう。しかし、そこにいうことが効きにくく感じる身があるとすれば...。いわんや、学生スポーツとはそういうものなのだ。


日大はフットボールが大好きな選手たちが集う好ましいチームだ。開いた点差以上の、大いなるものを選手たちは経験した。それをサポートする指導者たちも。もちろん関学は強かった。ライスボウルでは社会人代表を相手に勝利してほしい。但しそこで終わりではない。盟主として日本全国に愛すべきフットボールを広めていく偉大な使命がある。


学生フットボールは、もうすでにその次元を超えようとしている。快晴の甲子園は、そういう選手達を見守るがごとく、いつまでも清々しかった。



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記事と写真;関東学生アメリカンフットボール連盟広報委員長/スポーツジャーナリスト 岩瀬孝文

編集;畠中隆好(officeNEAR/甲子園ボウルPJT)

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