日大フェニックス かく戦えり 「進化した若き不死鳥が新たな歴史を刻む」

 

かつて赤い悪魔と恐れられた不死鳥が、27年ぶりに学生アメリカンフットボールの聖地・甲子園で大きく羽ばたいた。

全日本大学アメリカンフットボール選手権決勝・三菱電機杯第72回毎日甲子園ボウルで、日本大学フェニックス(東日本代表)は、連覇を狙った昨年度学生チャンピオンの関西学院大学ファイターズ(西日本代表)を23-17と逆転で下し、学生王座を約四半世紀ぶりに奪還、21度目の優勝を飾った。学生日本一の立役者であるQB林大希(大正高)は、史上初となる1年生でチャック・ミルズ杯(年間最優秀選手賞)と甲子園ボウル最優秀選手賞を獲得した。

甲子園ボウルは「赤(日大)と青(関学)」の歴史とも言われる。宿敵となる両校の頂上決戦は今回で29回目。これまで16勝10敗2分けと日大が優勢だが、春の定期戦での通算成績は17勝30敗3分けと分が悪い。そしてここ4年間は、日大は関学に勝利していない。今年4月に行われた試合では6-30と大敗。この試合後、山崎奨悟主将(4年、知徳高)は「甲子園で関学に勝ちます」と宣言していた。

臥薪嘗胆(目的を達成するため、薪の上に座って苦い肝をなめながら、苦しい努力を続けること)だった。試合終了後、勝利チームの監督インタビューを受けた内田正人監督は、言葉を詰まらせながら「(お祝いの言葉に対して)ありがとうございます。選手ががんばって、落ち着いて、よくやってくれた。厳しい練習についてきてくれた。誇りに思う」と目を潤ませた。

試合の流れはこうだ。

関学が、試合開始わずか3プレーでTDを奪う速攻をみせた。立命館大学パンサーズとの西日本代表決定戦を再現するかのような鮮やかな滑り出し。逆に日大は、ファーストシリーズがパントに終わり、このまま一方的な展開になるかと思われた。

しかし1Qの12分36秒。1年生QB林(大)からWR林裕嗣(1年、佼成高)への39ヤードTDパスで6-7(TFPキック失敗)と追いすがる。

2Q開始早々、関学は36ヤードFGをK安藤亘祐(2年、関学高)が決めて10-6とリードを広げる。

日大は前半残り1分50秒にQBファンブルを誘い、LBモーゼス・ワイズマン(3年、カポレイ高・米国)がボールを確保。敵陣28ヤードからの攻撃権を得た。このチャンスにRB宋旻宰(1年、日大豊山高)が中央を突破して16ヤードのTDラン。13-10と逆転に成功して前半を終了した。

日大は後半に入ると、前半と変わってパスで前進を図る。

試合の前日、「パスには自信を持っています。1年下ですが林(大)は中学で一緒にプレーした仲間。コミュニケーションが取れています。身長では関学のDBに勝っているので競り合いでは負けない」と話した関東大学リーグリーディングレシーバーの小倉豪(2年、大産大付高)がいきなり敵陣に攻め込むロングパスをキャッチ。その後も敵陣10ヤードまでパスキャッチで持ち込むと、RB川上理宇(1年、佼成高)が中央突破してTD。20-10と10点差に。

その後、K篠原歩夢(4年、長崎日大高)が33ヤードのFGを蹴り込み23-10とリードを広げた。

しかし試合巧者の関学は追撃を図る。

4Q開始早々にワイルドキャット体型からダイレクトスナップを受けたエースRB山口祐介(3年、横浜栄高)がTDラン、17-23と6点差に迫る。

日大は苦しい攻撃展開ながらP楠井涼(3年、大阪学芸高)が絶妙のパントをみせ、関学を自陣2ヤードに押し込む。日大の強力守備陣を前にして、攻撃に手詰まりをみせる関学は意表をつく3thダウンクイックパントで陣地を回復させた。

日大は次の攻撃もパント。ここでもP楠井が好パントで関学を自陣1ヤードに押し込む。

関学は試合残り6分36秒からじっくりとドライブ、日大陣内まで攻め込む。関学得意のキャッチアップオフェンスになるかと思われた矢先、試合残り1分42秒、パンターとしても活躍したLB楠井がパスインターセプト。この攻防で、攻守蹴に冴えを見せた日大が熱戦に終止符を打った。

1990年、学生王座に就いてからは転落の一途。屈辱の入替戦も経験した。

10年前の2007年。彷徨える不死鳥は17年ぶりに甲子園ボウルに舞い戻ったが、宿敵・関学と激戦の末、3点差の惜敗。その後、2011(3-24)、13年(9-23)、14年(10-55)と、3度甲子園まで駒を進めるものの、すべて関学の〝青い〟厚い壁に跳ね返され、敗れ去ってきた。

昨年、関東学生リーグ3勝4敗と屈辱の4位に終わった。しかし今年の日大は若手の台頭がチームを支えた。この躍動の原動力となったのが、主力の怪我で1年生ながらリーグ初戦から先発QBを務めた林(大)。「走力があり、強肩」と、内田監督が目を細める逸材だ。

内田監督は「3年前は関学に対して考えすぎた。今回はこれまでのうちがやってきたプレーをシンプルにするだけ」と、普段着のプレーを心掛けた。

これまでのフェニックスといえばショットガン、空中戦が代名詞だった。しかし今回はランとパスをミックスしたバランスアタックで王者関学を圧倒した。レギュラーメンバーが下級生中心の若いチームでまだまだ発展途上、その中で学生王者奪還とともに完全復活を宣言した試合でもあった。

フェニックスの栄光の歴史に新たな1ページが書き加えられた。

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記事;福武金二(スポーツジャーナリスト)

写真;P-TALK

http://www.p-gallery.jp/stm_shimizu.html

編集;畠中隆好(officeNEAR/甲子園ボウルPJT)