関学大と法政大
9年ぶり8度目の対決
三菱電機杯第76回毎日甲子園ボウルは、6年連続55回目出場の関西学院大学ファイターズと、9年ぶり18回目出場の法政大学オレンジの顔合わせとなった。両者は過去7回甲子園ボウルで対戦し、3勝3敗1分と互角の成績を残している。直近の対戦は2012年の第67回大会で、関学大が第4Q終盤に逆転の末に20対17で制した。今回も僅差の熱戦が大いに期待できる対戦カードだ。
関西学院大学ファイターズ
RB前田、齋藤を柱にした多彩なランが武器
リーグ戦と順位決定戦の4試合で平均35.3点を挙げている関学大攻撃の強みは、関西学生リーグ最優秀選手(松葉杯)受賞の前田公昭と、40ヤード走4秒5のスピードを持つ齋藤陸(共に4年)をはじめとした豊富なRB陣を生かした多彩なラン攻撃だ。ブロック最終節の関大戦以降、彼らをQBに配したワイルドキャット攻撃を多用している。ワイルドキャットにすることで二人同時にフィールドに置くことができ、しかも、二人共QBやFBの役割を担うことができる。齋藤に至ってはレシーバーの位置でプレーすることもある。齋藤にとってはQBやFB、WRなどのポジションは今季初めての経験で、このスタイルを実現するために練習を重ねてきた。さらに、本来はRBながら中学、高校時代はQBとしてプレーし、今季はWRの練習を積んできた前島仁(2年)、切れ味鋭いカットバックと、ヒットをいとわない気の強い走りの池田唯人(2年)が、バリエーションを広げている。OL陣は昨年から主力のLT二木佑介、LG田中琢己、RT牧野隼大の4年生トリオが核。1年生ながら先発に抜擢されたRG森永大為は、圧倒的なヒットの強さを持つ。C朝枝諒(4年)は、負傷が原因で2年時の秋から今春までで、アナライジングやストレングス・トレーナーとして活動してきた苦労人。ストレングス・トレーナー時代から培ってきたナロー・ベンチプレス160キロを支えるパワーを生かしたプレーが持ち味だ。
レシーバー陣は、昨年から出場している梅津一馬、河原林佑太の3年生コンビが健在。WJBで序盤にモメンタムを掴むロングパス捕球を決めたWR鈴木崇与(2年)も自信をつけている。関大戦以降、戦列から離れているエース格の糸川幹人(3年)が甲子園ボウルで復活してくるかも、法政大守備にとっては気になるところだろう。
今季から新先発として攻撃を率いているQB鎌田陽大(2年)も試合を重ねるごとに成長を遂げている。甲子園ボウルの大舞台でどんなパフォーマンスができるかは、今後さらに成長するための自信を得るという意味でも重要な戦いになるだろう。
役割分担徹底で思い切りを増した守備
守備は例年に比べて傑出したタレントは見当たらないが、それぞれが自分の役割分担に集中することで思い切りのいいプレーを実現している。1年時から出場している主将・青木勇輝(4年)を中心とするDLは、LBから転向で開花した赤倉航希(4年)に注目だ。高校時代はラン、パス共に高いレベルで守れるLBだったが、関学大では考え過ぎて本来の動きができなくなっていた。しかし、DLに転向して役割がシンプルになったことで思い切ったプレーができるようになった。LB時代に培った対戦攻撃の思考や狙いを読む力を生かしたプレーは、今季の関学大守備の大きな力になっている。LBは1年時から出場機会を得ていた海﨑琢(2年)が、試合を重ねるごとに鋭いプレーができるようになってきた。LB都賀創(4年)は派手なプレーはないが守備のブレーンであり、チームメイトたちの絶対的信頼を得ている存在だ。NBはラン守備の能力をかわれて主力の座を勝ち取った永井励(1年)と、パスカバー能力に長けた北川太陽(4年)をシチュエーションや相手の攻撃のタイプによって使い分けている。CBはボールを奪う能力に長けているCB竹原虎ノ助(4年)、保守的なプレーになりがちだったが、思い切りのよいプレーができるようになった和泉智也(4年)、昨1年時には和泉から先発ポジションを勝ち取った波田和也(2年)、高校サッカー出身ながら高い身体能力で主力の座を勝ち取った髙橋情(2年)と人材豊富。SFはLB都賀と共に戦術理解度に長けた永嶋大聖と、2年時から出場している宮城日向の4年生コンビがしっかり守る。立命館大戦では出場機会のなかったSF山本昌弥(3年)は、ロジックと嗅覚を兼備した存在で、コンディションさえ整えば主戦力として機能する。
法政大学オレンジ
どうにも止まらないRB星野
大型かつ機動力に長けたOL陣
過去17回甲子園ボウルに出場している法政大だが、2017年にチームづくりを見直し、有澤玄ヘッドコーチ体制となってからは初の甲子園ボウル進出になる。かつては圧倒的スピードが法政大の代名詞だったが、新体制以降力を入れてきたトレーニングによって、大型かつ力強さを備えたチームへと成長を遂げている。
今大会、最も注目されるのは関東で無双の走りを見せた法政大RB星野凌太朗(3年)がどんなプレーを見せるかだろう。リーグ初戦かつ大一番だった昨甲子園ボウル出場の日大との一戦では、ラン、パス投球、パス捕球、キックリターンすべてでTDを挙げる八面六臂の活躍で、35対28の勝利に貢献した。早稲田大との順位決定戦は、はコンディションが万全ではなかったが、前半終了間際にインターセプトで得た好機をTDにつなげるなど、勝負所を押さえた走りでエースの役割を全うした。40ヤード4秒5を切るスピードと、トップスピードで鋭角に曲がることができる能力は、守備選手二人に囲まれてもその間をすり抜けてしまうなど、通常では予想できないところに活路を見出す走りを実現している。また、中大戦で星野の不調を補い100ヤード超のランを記録した宮下知也(3年)も、通常ならばエースとして十分通用する。宮下がエースで星野がスーパーエースとも言えるだろう。QBから転向後、地道に体作りに取り組みRBとしての強さを手に入れた新井優太(2年)もショートヤードの状況など、重要な場面でしっかりと役割を全うしている。
攻撃を支えるOL陣は平均183.6センチ121.6キロと学生としては大型なユニットだ。C柳沢圭祐、G丸山豊(共に3年)、五十子慶(4年)、T斎藤穂高、石井潤(共に3年)と、3年生が中心だが、力強さと機動力を兼備した安定感のあるユニットに仕上がっている。実質先発3年目のQB平井将貴(3年)は、調子が悪い時でもしっかりと攻撃としてまとめ上げるクォーターバッキングを身に着けつつある。WR小山昭瑛(4年)は、絶対的な信頼を集めるエースレシーバーだ。
今年2年目の宮本士攻撃コーディネーターは、オービックシーガルズ時代に関学大・大村和輝監督の下でOLとしてプレーしていた経験がある。現在、関学大守備のコーディネーターを兼任している大村監督は「宮本コーチに負ける訳にはいかない」と、WJBの試合後にコメントしている。学生のアイディアを存分に採用して全体をまとめ上げるスタイルで攻撃を作ってきた法政大・宮本攻撃コーディネーターと関学大・大村監督の駆け引きにも注目だ。
相手にプレーを使わせて
ミスを誘う守備
法政大守備の基本コンセプトは、ビッグプレーを許さずに相手にプレーを多く使わせる中で、相手のミスを誘って断ち切るというものだ。これまでの戦いぶりを見ても、1試合平均308ヤード前進を許して喪失ヤードは関東5位の成績だったが、失点は関東2位タイの16.3点と、守備のコンセプトを如実に表す結果になっている。
DLは抜群のスピードを持つエッジラッシャーの半田航平(4年)、ハッスルプレーで守備に勢いを与える高澤励(3年)、強いヒットでOLをコントロールする増田源太郎(4年)、ビッグプレーメーカーの山本匠(4年)、LBとしても起用できる伊東春紀(3年)と個性派が揃っている。3年生ながら副将としてチームを率いているLB山田敦也は、パスカバーの能力が向上。SLB本田瑛寛(4年)はオープンプレーの対応に向上の跡を見せている。DBは守備リーダーのSF清野諒(4年)が堅実かつ力強いタックリングで最後尾を守る。早稲田大戦で2ファンブルフォース、東日本代表校決定戦でもインターセプトを記録した中川元太(3年)は常にボールを狙ったプレーができる。CBは負傷から2年ぶりに復活した高山亜秀(4年)が切れ味鋭い動きを見せている。
起用する人員と体型をプレー毎に変えて守備の混乱を誘って足を止めるとこが得意な関学大攻撃に対し、いかに惑わされずにプレーできるか。特に序盤や、後半の最初にモメンタムを左右するビッグプレーを許さないことが、15年ぶり6回目の甲子園ボウル制覇を実現するポイントの一つになることは間違いない。
学生のアイディアをコーチと共にアレンジしてプレーを作り上げるスタイルに始まり、RBに豊富な人材を揃えていることや、相手に進まれながらもビッグプレーを許さず粘る守備コンセプトなど、今季の関学大と法政大はとてもよく似たアプローチでチームづくりに取り組んでいる印象だ。これまでの戦いぶりから、タレントの充実度は法政大に、緻密なプレーの実行力は関学大にアドバンテージがあるといえる。いずれにしても、僅差の好ゲームになることは間違いないだろう。
上村弘文
写真:KCAFL & KCFA
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