『全員で勝つ』のではなく『全員が勝つ』チーム
12月19日、阪神甲子園球場で行われた全日本大学選手権決勝・三菱電機杯第76回毎日甲子園ボウルは、関西学院大学が法政大学を47対7で下し、4年連続32回名の優勝を遂げた。スコアは関学大の圧勝だったが、それは法政大が第4Qにリスクを背負ってキャッチアップを狙ったためついた点差である。スコアを見てから録画中継を観たあるファンは、「スコアの印象とまったく違う内容だった」と言っていた。全日本大学選手権決勝にふさわしい拮抗した実力者同士の好ゲームだった。
法政大は18回目の出場とはいえ、前回出場は9年前、しかも有澤玄HC体制となってから初めてであり、現在のチームにとっては初出場と変わらない状況だった。試合開始のキックオフを2度失敗するなど、序盤は地に足がついていない様子だったが、開始3プレーで関学大RB齋藤陸(4年)による先制TDを許して以降は、進まれてもTDを許さない法政大らしい粘り強い守備を見せていた。主力選手個々の能力を比較すれば、法政大の方が上回っていた。法政大のOLが関学大のDLをワンヒットで吹き飛ばす場面もあった。敢闘賞を受賞したRB星野凌太朗(3年)をはじめ、主力メンバーたちも試合の中で『いける』という感触を掴んでいた。
それでも関学大が大勝することができたのは、自分たちの持っている力を限られた時間の中ですべてに近い形で発揮する力をつけていたからだ。
WJBの序盤にエースである前田公昭(4年)が負傷し、甲子園ボウルには練習なしで望まなければならない状況の中、WJBまで多用していたワイルドキャットを6プレーのみに限定したが、RBを同時に複数投入することで、目先を変えるという効果をそのままに前田の負担を減らした方針の転換は見事だった。
「全員で勝つチームでなく、全員が勝つチームを作りたい」。今季のチームがスタートする時、関学大主将DL青木勇輝(4年)は、目指しているチームの姿をそう表現していた。エース不在で臨んだ甲子園ボウルでの大勝はまさにその取り組みが結実したものだった。
ラン11回73ヤード1TD、パス捕球7回99ヤード1TDを挙げて甲子園ボウルMVPを受賞したRB齋藤陸(4年)の活躍はもちろん、大勝の原動力になった。しかし、そのほかにもMVP級の活躍をした選手がいた。
WR河原林佑太(3年)はその一人だ。攻撃を得点圏に一気に進めた3度のロングパス捕球もさることながら、ランプレー時にモーションからランナーの前に出て強く、激しいブロックで走路を切り開いた。
関学大が真にアドバンテージを握ったのは第3Q、RB前島仁(2年)の68ヤード独走TDだったが、このプレーでも法政大守備の最後の一人を仕留めたのは河原林のブロックだった。
「個の力ではなく、チーム力の差でした」。法政大主将LB太田成哉(4年)は、個々には決して負けていないという手応えを得ながら大敗を喫した試合を通じて、チームとして力を発揮することの難しさ、それを実現している関学大の強さを実感していた。
誤解を恐れずに言えば、今季の関学大は決して最初から強いチームではなかった。潜在能力だけを見れば、関学大よりも強いチームはあった。それは、関学大も自覚していただろう。先発で起用したい人材が負傷等の理由で機能しなかったポジションも複数あったと、大村監督は明かしている。しかし、主力メンバーだけでなく、一人ひとりが自分たちにできることをひたむきに、100パーセント発揮し続けて勝利を重ねる中で強くなった。まさに、『全員で勝つ』のではなく、『全員が勝つ』チームに成長を遂げたのだ。
月刊ハドルマガジン
上村弘文
12月29日配信の月刊ハドルマガジン1月号Vol.89では、第76回甲子園ボウルのたくさんの写真と動画リンクで振り返っています。また、関学大、法政大のサイドストーリーも掲載しています。是非、ご一読ください。ご購読はコチラ
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