【試合の見所】青と赤。3年ぶり29回目の甲子園対決 by ハドルマガジン

全日本大学選手権決勝となって9回目を迎える三菱電機杯第72回毎日甲子園ボウルは、関西学院大学ファイターズと日本大学フェニックスの顔合わせとなった。
甲子園ボウル最多の29回目の対戦。これまでの通算成績は、日大が16勝10敗2分と勝ち越しているが、過去10年間の4度の対戦はいずれも関学が勝利している。

■日本大学フェニックス
鬼気迫るラン・ザ・ボール攻撃を安定した守備が支える

関東学生1部TOP8を6勝1敗で3年ぶりに制し、12月3日の東日本代表校決定戦で6年連続進出の東北大(東北学生1位)を77-17で下した日大は、攻守先発22ポジション中13ポジションを3年生以下が占める若いチームだ。

関東リーグトップの30.4得点を叩き出した攻撃は、1年生QB林大希が開幕から先発として率いている。高校時代からベンチプレス160キロを支えるフィジカルパワーと強肩を持っていた一方で、大正高時代は公式戦勝利の経験がない「ノーネーム」だった。

しかし試合を重ねるごとに成長を遂げ、リーグ第3節の明治大戦からは、歴代の名QBたちが背負ってきた日大のエース番号『10』を背負う。パス111試投65回成功(58.6%)5TD、5被INTのパス成績は、関東3位と発展途上だが、失敗を恐れない思い切ったプレーを貫き続けている。

RB陣は日大攻撃の看板ユニットだ。関東3位の71回462ヤード5TDを記録し、チームリーダーとなっているウィリアムス・デレク・アキラ(3年)は、密集を抜けるトルクと独走力を持っている。
ウィリアムスとローテーション起用されている中野直樹(2年)は、2016年U19日本代表の実力者。177センチ88キロの大型RBで、守備のヒットを弾力性のあるヒットで跳ね飛ばす。
昨年、全国高校選手権クリスマスボウルを制した佼成学園のエースだったRB川上理宇は、1年生ながらユニット随一の俊足を武器に戦力となっている。

メンバーが少なく、DL、TEから転向したメンバーが主力となっているOL陣は、当初、最も不安視されるユニットだった。しかし、唯一2年時から先発のOG加倉井翔(4年)を中心に、練習とミーティングを重ね、機動力を生かしたコンビネーションを発揮するユニットに仕上がりつつある。

レシーバーでは、昨U19日本代表でもエース格だった小倉豪(2年)、昨クリスマスボウルでDB/RETとして最優秀バックス賞三隅杯を受賞した林裕嗣(1年)の活躍が目立っている。

関学との対戦では、OL陣が関学の強い守備フロントをコントロールできるか。もう一つはターンオーバー防ぐことができるかがキーになる。
今季、日大の攻撃はリーグ戦で計10回のターンオーバーを奪われている。また、春の定期戦(6-30)でも、前半終了間際に立て続けにターンオーバーを喫したことが、敗戦のきっかけになっていただけに、春からの成長ぶりが注目される。

守備は関東2位タイの11.7失点と安定している。発展途上の攻撃陣が、厳しいフィールドポジションでターンオーバーを幾度も喫した状況での成績であることを加味すれば、実力は関東ナンバーワンと言っても差し支えないだろう。
喪失ヤードでは試合平均209.4ヤードと、関東最少であることもそれを裏付けている。

守備フロントは例年に比べて傑出したタレントはいない。しかし武田真一守備コーチの加入により、サインが整理され思い切り動けるようになった。
DLは主将・山崎奨悟(4年)が中心。昨U19日本代表でも活躍した宮川泰介(2年)は、パスラッシュとパスカバーの両方担うOLBとして、キーパーソンになっている。

LBは、昨年までSSでプレーしていたLBモーゼス・ワイズマン(3年)が、力を発揮している。高校時代はLBであり、同時にレスリングではハワイ州の体重別王者となった経歴を持つアスリートなだけに、タックルの技術、能力は秀逸だ。

守備好調の要因の大きなファクターとなっているのは課題だったパス守備の改善だ。2年時からDBとして出場しているSFブロンソン・ビーティー、昨大学世界選手権日本代表のCB奥本魁、米田亮太(すべて4年)ら、昨年からの先発メンバーがすべて残っているが、今秋は吉田朋治(3年)、柴田和樹(1年)らが先発争いに食い込み、チーム内競争が激しくなった。

関学との対戦では、今季の3分の2の獲得距離を稼ぎ出している関学のラン攻撃に対して守備フロントがどこまで食い止めることができるか。
さらに学生界随一のメンバーを揃える関学レシーバー陣に対し、DB陣がビッグプレーを許さずに守りきることができるかが、勝敗を左右するポイントになる。

■関西学院大学
パワー戦略で立命館大に雪辱。若手の活躍際立つ守備

関学はリーグ最終節で立命に7-21の完敗を喫して、関西学生リーグ連覇を逃した。しかし11月26日、西日本代表校4回戦で名古屋大(東海学生1位)を49-17と下して、再挑戦権を奪取。
12月3日の西日本代表校決定戦ウェスタンジャパンボウルで、関西学生王者の立命に34-3と雪辱して、2年連続甲子園ボウル進出を決めた。

今季の関学攻撃は、1試合平均ラン獲得221.0ヤードに対しパス110.3ヤードと、ランが柱になっている。リーグ最終節の立命戦は、そのランを25回98ヤードに封じられたことが敗因の一つになっていた。しかしウェスタンジャパンボウルでは、ラン51回319ヤード獲得と見違えるような復調を果たした。

僅か2週間で目を見張るような改善を遂げることができたのは、主将OL井若大知(4年)率いる下級生中心のOLユニットの奮闘と、TE三木大己(4年)、對馬隆太(3年)の2人をFBの位置に配置し、ブロッカーを増員した体型からのプレー比率を増やした戦略にある。
立命守備フロントのスピードに対し、ブロッカーを7人配置することで走路をこじ開けることに成功。弱点を補う引出しの多さは、関学の伝統的な強みでもある。

ウェスタンジャパンボウルで、15回202ヤード2TDを挙げたRB山口祐介(3年)は、僅かなホールでも走り抜けることができる無駄のないカットと、優れたボディバランスを活かし、一度オフバランスになった状態から立て直してビッグプレーにつなげる力がある。陸上競技出身のRB渡邉大(2年)、リターナーとしても主戦のWR前田耕作(4年)ら、スピードのある選手をWRの位置からオープンに展開するプレーも多用している。

今秋から先発の座についたQB西野航輝、春の試合を主戦で率い、秋はポイント起用されているQB光藤航哉の3年生コンビは、いずれも走力に優れたQBだ。

2度目の立命戦はランで押し切った印象だったが、好成績を納めている日大守備を攻略するには、守備がラン阻止に人員を割く裏を突きたいところだ。またDBをラン守備に参加させづらい状況を作ることも必要だろう。
WR松井理己(3年)、亀山暉(4年)、前田泰一(4年)の先発レシーバーは、学生界トップクラスの実力者が揃っているだけに、パスを効果的に使うことができるかが、試合の主導権争いのポイントになりそうだ。

リーグ戦試合平均9.4失点と関西2位の成績を記録した守備は若手の活躍が目立っている。藤木秀介(4年)、三笠大輔(3年)、柴田啓汰(4年)の実績組を擁するDL陣は、昨U19日本代表の寺岡芳樹(2年)、藤本潤(2年)、今井健(2年)らの台頭によって、先発が昨年と入れ替わったインサイドの不安要素を払拭した。
副将LB松本和樹(4年)率いるLB陣で出色は、1年生ながら先発に抜擢されている海崎悠の活躍だ。小学校1年時から12年のプレー経験を持ち、高い戦術理解度と、経験に裏打ちさせた「嗅覚」を両立している。立命戦で、エースRB西村七斗(4年)をソロタックルで仕留めたタックル力も秀逸だ。

DBは1年時から先発出場の小椋拓海(4年)をCBからSFにコンバートし、戦術的な要として起用している。181センチと長身で、ウェスタンジャパンボウルでも立命の反撃の芽を摘むインターセプトを演じたSF畑中皓貴(2年)、小兵ながらタックル力に定評があるCB木村翔太(3年)ら新先発メンバーが個性を発揮している。

日大攻撃の柱になっているラン攻撃をいかに止めるかが、甲子園ボウルの見どころの一つになるが、立命のラン攻撃を阻止することに成功した一方で、日大には立命とは違うタイミングの早いパスがある。リズムに乗せないためには、日大のQBに対して、フィジカルとメンタルの両面でプレッシャーをかける必要がある。

互いにランをベースに戦っていること、守備が安定していること、QBが新先発であること、主力に若手が多いことなど。今季の関学大と日大は共通点が多い。加えてリーグ戦を通じて劇的な成長を遂げてきた点も似通っている。

試合までの準備期間はもちろん、甲子園ボウルの対戦中に成長する選手がどれだけ多く出てくるかも、勝敗を分ける要素になりそうだ。

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記事;上村弘文(HUDDLE MAGAZINE)
ハドルウェブ https://huddlemagazine.jp
写真;seesway(KCFA Official Photographer)
P-TALK  http://www.p-talk.jp/

編集;畠中隆好(officeNEAR/甲子園ボウルPJT)