東日本代表・早稲田大学ビッグベアーズ

QB #1 柴崎哲平(4年)
「本当に色々な人の思いを背負っている」―――。2018年12月16日、阪神甲子園球場。呆然とした表情で立ち尽くす背番号1の姿がそこにはあった。QB柴崎哲平は日本一を懸けた戦いに挑み、敗れた。かつてないほどに自分を追い込み、「勝てる」という自信もあったが、宿敵・関学の壁は高かった。完敗を喫し、また悔しさだけが柴崎の胸に積み重なった。甲子園での戦いを終えて間もなく、人一倍責任感の強い柴崎は「誰よりもチームを勝利に導きたい」とチームの副将に立候補。オフェンスの核として、ディフェンスの中心を担う主将LB池田、副将DL二村と3人でチームを引っ張る覚悟を決めた。そんな柴崎がシーズン当初から懸念していたのは最も深く携わるパスユニット。WR遠藤健史(19年卒)、高地駿太郎(19年卒)といった主力が抜け、頼りになるのはWRブレナン翼、ただ一人。またゼロから新しいパスユニットを作り始めた。

春シーズンでは苦戦を強いられた。どうしてもブレナンにパスが集まっていく中、思うようにパスが決められない試合が続いた。ブレナンが欠場した春シーズン最終の明大戦では、14-26の敗戦。攻撃のリズムがつかめず、柴崎も本来の輝きを失っていった。

柴崎はいわゆるポケットパサーだ。OL陣の作る防御壁の中からパスターゲットを探し、パスを通す。柴崎の左腕から放たれるパスは一級品。短く鋭いパスの正確性はもちろん、長いパスも華麗な放物線を描き、味方にしか届かない絶妙な位置に落とす。小学校6年生から10年以上投げ続けてきた柴崎のパスとターゲットを見つける洞察力は、学生界で右に出るものはいないであろう。

そんな柴崎だが、ボールを持って走るのは苦手だ。40ヤードは5秒1と速くも遅くもないが、LOSを超えるとスピードが出なくなるという。関学大のQB奥野耕世のように一人で打開するプレーに対する憧れはあったが、「努力はしたけど走るのは向いてなかった(笑)。そこは仕方ない」と、割り切り現在のスタイルに至った。走れない分、「周りを頼るしかない」と自身の限界を認め、真摯に向き合ってきた。自分の弱さを認めてきたからこそ、今の柴崎がある。

春シーズンではいまひとつ奮わなかったパスユニットだが、夏合宿などを経てWR伊藤裕也やWR小貫哲らが大きく成長。昨年ほどの爆発力こそ欠けるが、確実性の高いパスキャッチで安定感のあるパスユニットを構成してきた。リーグ戦6TDのブレナンを筆頭に、レシーバー陣の支えもあり、関東大学秋季リーグでは、パス成功率は目標としていた70%。QBレーティング181.1を叩き出し、リーグMVPにも輝く活躍を見せた。

「これまで早稲田の歴史に何度も泥を塗ってきた」。柴崎がフットボール人生を振り返るときに、必ずといっていいほどにこの言葉を口にする。幾度となく挑んだ“頂”の舞台。高校時代と合わせて4度も“関学”に敗北し、数えきれないほどの涙と悔しい思いを重ねてきた。責任感の強い柴崎のことだ。自責の念に囚われることもあっただろう。しかし、度重なる敗北にも折れることなく立ち上がり、その度に大きく成長し、いまや学生界を代表するほどのQBになった。

もう柴崎に敗北は必要ない。「7年間、早稲田のアメフトを背負ってやってきた全てをぶつける」。幾重にも重なる想いを胸に挑む最後の甲子園。7年間分の責任を果たす時が、ようやくやって来た。

記事:涌井統矢(早稲田スポーツ新聞会)
写真;早稲田スポーツ新聞会    http://wasedasports.com/
編集;畠中隆好(甲子園ボウルPJT)

RB #25 吉澤祥(2年)

毎年新チームとお披露目となる4月29日の早慶対校戦。今年の駒沢陸上競技場には、見慣れない背番号25の姿があった。RB吉澤祥。アメフトを始めてちょうど1年ほどで、スターター争い激戦区の早稲田RBユニットの一角に名乗りを上げた。

吉澤は思い切りのいい走りをする。プレーコールが外れ、相手ディフェンスが目の前に2人待ち構えている状況でも、迷うことなく突撃していく。誰もが一瞬、躊躇する場面でも、まっすぐぶつかっていける度胸が吉澤にはある。

吉澤は吉祥寺にある成蹊高出身。一浪で早稲田へ入学してきた。高校生の時にたまたまテレビで見たNFLを見て憧れを抱いたこともあり、入学後すぐに米式蹴球部BIG BEARSへ入部した。

映像で見たとは言え、未経験だった当時の吉澤にとって入部当初は未知の連続だった。新人練習の頃は、コンタクトスポーツの難しさに直面した。高校時代まで野球をやっていた吉澤にとって常に体がぶつかり合うアメフトという競技の、コンタクトの多さに戸惑い、慣れるまでに時間がかかった。やっている練習がプレーのどこに活かされていくのか全く分からない状態で、コーチや先輩に言われるがままに、ただがむしゃらにプレーしていたという。入部前の「身体能力だけで勝負しているイメージだった」というアメフトへの印象は大きく変わり、「想像していた以上に頭を使うスポーツ」と思うようになった。

いまでも知識の面では分からないことは多い。それでも1年間反復して練習を続けてきた中でアメフトの動きに関しては、徐々に体に染みついてきている。

その成果もあって、今年のリーグ初戦の東京大戦で、114ヤードのラッシュを記録する活躍で、存在感を示した。RB中野玲士、RB荒巻俊介、RB広川耕大の上級生3人とスターター争いを繰り広げる中で、出場機会を減らす時期もあった。

しかしリーグ優勝を決めた法政大戦では、間残り時間1分30秒の場面で、勝ち越しとなるTDを挙げるなど、後半2TDの活躍でチームを窮地から救った。終わってみればリーグ戦4TDに加え、ラッシングヤード311.1、平均6.8ヤードという堂々たる数字を叩き出し、チームの関東制覇に大きく貢献してみせた。

まだアメフトの世界に飛び込んで来てから1年と半分ほど。ライバルと比べれば技術で劣るところはまだまだ多い。だが吉澤には、他の誰にも負けない武器がある。「恐れを知らないからこそできるプレー」。吉澤の無垢な走りが聖地を「思いっきり」駆け抜ける。

記事:涌井統矢(早稲田スポーツ新聞会)
写真;早稲田スポーツ新聞会  http://wasedasports.com/
編集;畠中隆好(甲子園ボウルPJT)


WR#6ブレナン翼(4年)

早稲田のエースWRブレナン翼も、いよいよラストイヤーを迎えた。これまでその日本人離れしたスーパーキャッチの数々で、何度もチームの窮地を救い、長身を生かした鮮やかな身のこなしで観客を魅了してきた。

昨年ブレナンと共に大学日本代表に選出された早稲田のQB柴崎哲平に「ブレナンがいなかったら僕は普通のQBだと思います」と言わしめるほどに、早稲田パスユニットにおいてその存在は絶対だ。

柴崎との連携は学生界随一だ。「ブレナンにしか取れないゾーンがあるのでそこに投げれば何人カバーされても決まる」と、柴崎が語るホットラインでこれまでいくつものTDを奪ってきた。今年の関東大学秋季リーグでは6TDに加え、39回のレシーブで574ヤードを叩き出した。これはチームのパス獲得ヤードの約半分。まさにエースの名に恥じない結果を残した。

ブレナンの活躍は、シーズン後半の重要な試合でこそ際立つ。過去3年間も終盤の試合で活躍を重ねてきた。今シーズンも、前半3試合では1TDであったが、後半3試合で5TDの活躍。関東制覇を決めた法政大戦でも、同点のパスキャッチを含む2TDの活躍でチームの勝利に大きく貢献してみせた。

そんなブレナンだが、甲子園ではいまだその真価を発揮していない。過去2回の出場を経験した聖地では、どちらも関学大の屈強なディフェンス陣を前に、関東のリーグ戦で見せてきたほどのプレーはできず。もどかしい思いをしてきた。

それ故に、関西の人々はいまだ本当のブレナンの姿を知らない。勝負所での集中力は何者にも勝る。強敵との対戦の中での、ギリギリの試合展開こそ。ブレナンの真骨頂が発揮されるということを。

「甲子園が一番楽しめる舞台」と、宿敵・関学大との一戦を心待ちにする早稲田のエースWR。アメフトを愛し、アメフトに愛された男・ブレナンが創部史上初の日本一へ向け、早稲田の『翼』となる。

記事:涌井統矢(早稲田スポーツ新聞会)
写真;早稲田スポーツ新聞会   http://wasedasports.com/
編集;畠中隆好(甲子園ボウルPJT)

LB#88池田直人(4年/主将

LBとしてディフェンスの中心に立ち、主将としてチームの中心に立つ。今季の早稲田を常に引っ張ってきた主将LB池田直人。

優しい性格で、選手やスタッフの垣根を超えて誰にでも分け隔てなく接する池田は、チームの全員から信頼される存在だ。毎年150人ほどの選手が所属する米式蹴球部の中で、1年時よりスタメン出場を果たし、プレーヤーとしての実力も折り紙付き。引退した先輩たちからも「(池田が)主将をやったほうがいい」とアドバイスを受けたこともあり、主将に立候補した。

シーズン当初から苦労したのは、スタッフ含め、大所帯をまとめる難しさだ。春は提出物を期限内に出さない選手や忘れ物をする選手が多く、私生活での気の緩みがプレーにも影響を与えると考えた池田は、モラルやマナーといった振る舞いの部分からチームを厳しく見つめ直した。

「チーム内の仲が良い」というのは、今年の早稲田の特徴の一つだ。しかし、仲が良いが故に練習中に緩い雰囲気が出てしまうこともあり、その度に普段は怒ることのない池田が厳しく叱咤した。

春シーズンでは関東で同じTOP8に所属する明治大に完敗を喫するなど、本来の実力を出し切れていなかったチームだが、夏合宿をきっかけに徐々に変わっていった。

10泊11日の長い合宿期間、毎日のように4年生だけのミーティングを行い、お互いの日本一への想いをぶつけ合った。「4年全員が池田主将のもと、一つの方向を向いてくれている」と高岡監督が語るように、4年生の働きかけも増えていき、徐々にチームはまとまっていった。

そして迎えたリーグ戦。第5節を終えた時点で5戦全勝の単独首位に立った早稲田。第6節で対戦した法政大は、これまで4勝1敗で2位につけていた。早稲田は勝てば優勝、負ければ優勝が大きく遠のくという状況で迎えた。

試合開始のキックオフでいきなりの先制を奪われるなど、リーグ戦では初めて2本差のビハインドで試合を折り返す厳しい状況でも、誰一人として諦める選手はいなかった。

「うちのオフェンスだったら逆転してくれると思って最後まで諦めずに戦うことができた」と、チームの心を一つにして戦い、最終盤に逆転。ディフェンスも後半奮起し、強力な法政大オフェンスを完封に抑えてみせるなど、まさにチーム一丸でつかんだ関東王者の座であった。

早大学院出身の池田は高校時代から数えて過去4度、日本一を懸け『関学』と争い、全て敗れた。

「これまで日本一を懸けた場で4度も関学に負けていて、相手の優勝の瞬間を何回も見て悔しい思いをしてきた。だからこそ、最後はしっかりと勝って日本一になりたい」と、雪辱に懸ける想いは強い。
「甲子園を行って満足する場所じゃなくて、勝って終わらせる場所にしたい」。

チームを創部史上初の日本一へと導くため。頼れる主将がディフェンスの中心に立ち、『最後に』関学大の猛攻を止めてみせる。

記事:涌井統矢(早稲田スポーツ新聞会)
写真;早稲田スポーツ新聞会 http://wasedasports.com/
編集;畠中隆好(甲子園ボウルPJT)

DL#66二村康介(4年/副将)

文系の学部が集まる早稲田大学の戸山キャンパスを歩いていると、ひと際目立つ大男が目に入る。副将DL二村康介。未経験で米式蹴球部BIG BEARSに入部し、副将にまで登りつめた努力の男だ。

これまで何度もケガに苦しめられてきた。「色々なところをバランスよく(笑)。ケガできるところは全部しきったって言えるくらい全身をケガしてきました」と、笑顔で冗談交じりに語る二村だが、度重なるケガからの復帰は並大抵のことではないはずだ。

苦しく、孤独なリハビリの日々を何度も乗り越えてきた。一人ひたむきに、黙々とスタッフが考えてくれたトレーニングに取り組む姿をチームメートはずっと見てきた。「チームで一番努力してきた選手」。自身もストイックと評される主将LB池田直人も、アメフトに対する二村の真摯な態度に信頼を寄せる。

試合中の相手RBやQBを力ずくでなぎ倒す獰猛な姿からは想像もつかないが、一度フィールドを出ればすごく優しい性格の持ち主だ。誰にでも分け隔てなく接し、後輩からも慕われる存在。少しヌケた一面もあり、周りからいじられるのもご愛敬。親しみやすい雰囲気の二村のそばには、自然と人が集まってくる。

昨シーズンは甲子園ボウル前に復帰を遂げ、聖地では初めてスターターに名を連ねた。昨年の一戦を、「試合中に楽しいなって思ったのはあの時が初めてだった」と、二村は振り返る。チームは大敗を喫したが、個人としては「絶対に敵わない」と思っていた関学大とのライン戦で、互角の勝負を繰り広げた。関東では味わえなかったギリギリの勝負に、アメフトを初めてからイチバンの胸の高鳴りを感じたという。

今年は春の早慶戦前に負傷。春シーズンは1試合も出場することができなかった。大学から競技を始めたこともあり、周りと比べると試合経験が少ないこともあり、「もっと試合に出たい」と、もどかしい思いをする日々が続いた。復帰を遂げた秋季リーグ戦では安定感のあるプレーは見せたが、モメンタムを引き寄せるビッグプレーはできず。本領発揮とはいかなかった。それだけに、甲子園では二村率いるDL陣の活躍に期待がかかる。

「もう負けるのは飽きた」。度重なるケガを乗り越え、鍛え上げられたフィジカルと精神力を武器に、副将・二村が甲子園での敗北の歴史に終止符を打つ。

記事:涌井統矢(早稲田スポーツ新聞会)
写真;早稲田スポーツ新聞会 http://wasedasports.com/
編集;畠中隆好(甲子園ボウルPJT)


DB#21大西郁也(3年)

2年連続の関東制覇を決めた法政大戦。最後に勝利を決定付けたのは、DB大西郁也が試合終了間際に見せた、2つのビッグプレーだった。

試合序盤から苦しい試合展開が続いた。試合開始のキックオフでいきなりの先制を許すと、オフェンスのミスも重なり立て続けに失点。前半で4TDを奪われ、リーグ戦で初めてビハインドを奪われて試合を折り返す厳しい状況に。前半大差をつけられる試合展開に、昨年の甲子園ボウルが脳裏をよぎる。

しかし焦りが生じてもおかしくない場面にも、早稲田ディフェンス陣は冷静だった。「後半になってギアを変えられた」(大西)と、ディフェンス陣が奮起。その頑張りにオフェンス陣も応え、試合残り時間1分30秒の場面でRB吉澤祥がエンドゾーンに飛び込みついに逆転。

このまま逃げ切りたい早稲田であったが、一筋縄ではいかないのが法政大だ。長身のWR陣へのパスを軸に、ゴール前7ヤードまで進行され、暗雲が立ち込める。誰もが固唾を飲んでフィールドを見守る場面でも、大西は冷静だった。

「どこかで流れを切る」。1つのミスが命取りになりかねない緊迫した試合展開の中でも大西は攻めの姿勢を貫いた。法政大のエースレシーバー陣へ向け放たれた一つ目の鋭いパス、試合前に叩き込んだパスコースを読み切りカット。一難逃れる。法政大は続くダウンでもパスを選択。相手QBが投げたエンドゾーンへの球筋が少し浮いた。その隙を大西が見逃すことはなかった。残り4秒の劇的インターセプト。試合を決定付けるビッグプレーに、この日一番の歓声が横浜の空に響き渡った。

早大学院高時代から共にプレーをしてきた1学年上のDB永井雄太は、大西のプレーヤーとしての強みを「流れを変えるプレーができる」と評する。試合前のスカウティングを抜かりなく行い、相手の攻撃パターンを頭の中に叩き込んでいるからこそ、試合で攻めたプレーができるのだ。常に相手の動きを先読みし、ミスを恐れないアグレッジブなプレーこそが、2つの好守を生み出した。

「今年は高校時代から一緒に試合に出ていた選手が多くいるので、その先輩たちを日本一する。学院の時にクリスマスボウルで関西に負けたみんなで関西に勝つ。それに加えて大学で一緒にやってきた仲間たちと勝ちたい、この代で日本一になりたいという思いはとても強い」。

主将LB池田直人を始め、スターターに名を連ねるメンバーには早大学院高出身の選手が多い。6年間共にプレーしてきただけに、当然思い入れも強い。大学でも多くの仲間が増え、共に鍛錬を重ねてきた。そんなメンバーで挑むことのできる、最後の「学生日本一」の舞台。流れを変えるプレーでチームを勝利へ導くために。入念な準備を怠らない大西の戦いは、すでに始まっている。

記事:涌井統矢(早稲田スポーツ新聞会)
写真;早稲田スポーツ新聞会  http://wasedasports.com/
編集;畠中隆好(甲子園ボウルPJT)