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RB #26 前田公昭(4年)
学生界最強の男が甲子園へ帰ってきた。RB前田公昭は、無類のスピードと力強いランで常にチームをけん引する。どんなタックルを受けようと、決して一発では倒れない。一歩、また一歩と前へ突き進んできた。 下級生時から目覚ましい活躍を見せた。2年時の甲子園ボウルでは、42㍎の独走ランでTDを獲得。その後もエンドゾーンまで1㍎地点からのダイブで2本目のTDを決めた。この日、ランの記録は合計119㍎。試合を振り返り、「ゴール前は、もともと4年生が任せられる重要な場面」と一言。前田の強力なランは、チームになくてはならない存在だった。 ようやく迎えたラストイヤーは、順風満帆とはいかなかった。「考えすぎた自分がいた」と語る前田。春シーズンからエースの名にふさわしい走りでチームを導いてきたものの、「気負いすぎたプレーをしてしまった」。最上級生としてのプレッシャーに悩まされたという。副将として、エースとして、前田にのしかかる責任は大きい。「とにかくうまくやらないといけないと思っていた」。どこかいつも通りにはいかない自分へ焦燥感を覚えながら、常に打開策を模索し続けた。 解決の糸口は思い出の中にあった。高等部時代にもファイターズで副将を務めた前田。結果は全国ベスト8と振るわなかったものの、確かな達成感がそこにはあった。「チームを勝たせるプレーはもちろん大事。でも、自分が楽しかったと思えたときが、一番いいプレーをできた」。まずはフットボールを楽しむこと。単純でも、自身の出発点を見直すことで、本来のプレーを取り戻せた。 一段と成長を遂げた前田の躍進は続く。今季のリーグ戦では、4戦合計でラン281㍎7TDを獲得。西日本代表校決定戦でも、ラン119㍎2TDと目覚ましい活躍を見せ、松葉杯を受賞した。しかし、前田の活躍は記録にとどまることを知らない。掲げ続けてきたのは「流れを変える、ではなくつくるラン」。困難な状況でも、前田のランが常に道を切り開いてきた。学生最後の大舞台でもやることは変わらない。4連覇まで残り1勝。再び甲子園へと足を踏み入れた最強の男が今、勝利への道を突き進む。 記事:谷村彩瑚(関西学院大学体育会学生本部編集部・関学スポーツ) |
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RB #27 齋藤陸(4年)
一度ボールを受け取るとフィールドを独走し、必ずTDへもっていく。今年度、パートリーダーを務めるRB齋藤陸。最大の強みは何といっても抜群の瞬発力と判断力だ。スピードのある走りだけでなく、低く素早いタックルもかわし、相手を翻弄(ほんろう)する。 出身は茨城県の江戸川学園取手高。総部員数20人ほどの小さなチームで日々練習に取り組んできた。ポジション分担は難しく、齋藤は攻守を兼任。試合では常に引っ張りだこで、「第4Qになると、必ず足がつっていた」と当時を振り返った。そんなチームの部員数は年々減少。後輩に向け、「ここまで人数が減ってしまったことは悲しい。このチームから関学へ行き、活躍する選手がいることを見ていてほしい」と健闘を誓った。 齋藤のプレーは試合の流れを変える。2年時には、キッキングメンバーとして多数の試合に出場し、ポテンシャルの高さを発揮した。中でも、春シーズン2戦目の慶大戦ではファインプレーを見せた。関学のミスが続き、第3Qでは13―13と苦しい状況。しかし、直後のキックオフから90㍎のリターンTDを決めた。その後もリターナーで活躍を見せ、新戦力としてチームの勝利に貢献した。 苦しみも味わった。昨年度春シーズンは新型コロナウイルスの影響で試合が中止に。やっと迎えた秋シーズンでは1試合目の同大戦でけがを負った。その後、リハビリ期間に防具を付けた選手と接触し、状態はさらに悪化。厳しい期間が続いたが、齋藤は常にストイックだった。治療中はフィジカル強化に注力。その甲斐あって、鍛えられた体とこれまで以上のスピードを手に入れ、表舞台へと帰ってきた。 甲子園ボウル出場を懸け、迎えた立命大戦ではRB陣が相手を圧倒。齋藤は第1QからTDを奪い、立命大を引き離す。その後、相手に3TDを許すが、またも齋藤が取り返し、リードを保った。まさしくRBの活躍が勝利の鍵だった。結果は34―24。関学が6年連続で西日本制覇を果たし、甲子園ボウル出場を決めた。 次戦は学生日本一を決める戦いに臨む。高校時には、テレビで見ていたファイターズ。今や齋藤は、そのチームの中心を担う存在にまで上り詰めた。立命大戦後のインタビューでは、「分かっていても止められないようなランをしたい」と熱く語った齋藤。彼のプレーは、関学の甲子園ボウル4連覇に欠かせない。 記事:辻本生吹(関西学院大学体育会学生本部編集部・関学スポーツ) |
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QB #15 鎌田陽大 (2年) 新進気鋭のエースが、甲子園の大舞台でも魅せる。QB鎌田陽大は2年生であるにもかかわらず、春からスタメンとして活躍。下級生とは思えない強気なプレーと冷静な判断を用い、唯一無二のポジションで常にチームの中心を担ってきた。 すでに絶大な存在感がある。2年生の鎌田にとって、秋シーズン初陣となった同大戦。2プレー目からいきなり42㍎のロングパスを決め、華々しいデビューを飾った。さらに、その後もWR糸川へ42㍎のピンポイントなパスを通しTD。記録は20回投げて13回成功。トータルで271㍎をゲインし、関学の新たな司令塔として強烈な印象を与えた。 その強みは、何といっても強肩だ。本調子なら「50㍎から60㍎は投げられる」と言う。実際にその肩を生かし、何度もチームを率いてきた。しかし、彼の長所は単にロングパスを決められる、というところではない。「投げられる範囲が広いと、自分たちの攻撃範囲は広がり、その分ディフェンスの守備範囲は増える」。鎌田がグラウンドに立つだけで、相手にはプレッシャーがかかる。持ち前の大砲肩で、オフェンスを常に有利な状況へと導いてきた。 目覚ましい活躍を見せる鎌田だが、「緊張する部分はもちろんある」。昨年度まで在籍したエースQB奥野耕世(21年卒)の後継者として、感じる責任は大きい。奥野は、鎌田と同じく2年時から第一線で活躍。その頃から、甲子園ボウルでMVPとチャックミルズ杯をW受賞するなど、まさに絶対的エースとしてチームを率いた。「奥野さんに限らず、関学のQBは常にオフェンスの中心で空気をつくることのできる存在」。下級生だからと言い訳はしていられない。進化を止めない鎌田は「プレーでも精神面でも誰もが信頼できる存在になるために、練習からぶれずにいたい」と今後の課題を分析した。 戦いの中で成長を遂げてきた。1枚目として出場する初めての秋に「とにかくうまくやろう、冷静にやらなければと縮こまった」。しかし、一緒に戦ってきた4年生たちの姿に助けられた。「とにかくオフェンスを引っ張ってくれる。自分は、その中でのびのびとプレーさせてもらえた」。偉大な上級生たちに触発され、徐々に本来の実力を取り戻していった。練習通りのプレーを試合でも発揮。「プレッシャーの中で、楽しめるようになれた」と前向きな姿勢を見せた。 「パスで見せてやりたい」。今年度はRB前田やRB齋藤を筆頭にランプレーの印象が強い。宿敵・立命大との対戦を振り返っても「ランに頼ったオフェンスだった」と語った。しかし、強者ぞろいのファイターズの強みは、幅広いプレーを出せること。「甲子園ボウルは15分Q。より多彩なプレーを使っていく必要がある」。練習から何度も繰り返したパスプレーで、積極的に得点を狙っていく。目標を尋ねると、「前田さんに『俺にも出番をくれよ』と言わせたい」と強気な意気込み。初めての大舞台でも、鎌田の活躍が青戦士たちを勝利へと導く。 記事:谷村彩瑚(関西学院大学体育会学生本部編集部・関学スポーツ) |
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DL #43 赤倉航希(4年)
堅実に努力を積み重ねてきた。関学のディフェンスを支えるのはDL赤倉航希だ。実家近くに富士通フロンティアーズの練習場があったこともあり、小学生の頃からフラッグフットボールを始めた。アメフトをやろうと決め、関東の名門・佼成学園高へ入学。1年時からスタメンとして試合に出場し、着々と実力を付けた。2、3年時にはクリスマスボウルに出場。佼成学園の初優勝に貢献し、2度の日本一を経験した。数々の大学から声を掛けられる中、「やるなら日本一を目指したい」との思いで関学を選んだ。 名門校出身の赤倉でも崩せない壁があった。2年時秋の京大戦、2枚目として控えていた赤倉だったが、繁治亮依(21年卒)の負傷により出場のチャンスを得た。すると、自身2プレー目で圧巻のQBサック。いきなり存在感を放ったが、1枚目への壁は高かった。当時スタメンを張っていたもう1人のLBは海﨑悠(21年卒)。偉大な先輩の背中を追いかけたが、赤倉が陽の目を浴びる日は遠かった。「2人は次元が違った。とにかく2枚目として全うする」。そう心に決め、3年間を耐え抜いた。迎えたラストイヤーでは、最前線で活躍する赤倉の姿があった。 転機が訪れた。「複雑に考えすぎて体が動かない」。悩みを抱えながらも、LBを続けていた赤倉。そんな中、コーチからポジション転向を提案され、4年時の春にDLへ。「やりやすくなって、自分に合っているなと思えた」と今までの苦悩が吹っ切れた。「当たる強さは足りないが、相手の嫌がる場所を予測したプレーができる」。LBの経験を糧に、勝利に貢献してきた。 甲子園ボウル出場を懸けた西日本代表校決定戦。立命大のエースQB野沢は高校時のチームメイト。赤倉は「対戦できて良かったけど、もう戦いたくない相手。勝てて、ほっとした」。宿敵を34―24で封じると、結果に安堵(あんど)した。しかし、油断は禁物だ。「今まで勝利し続けてきたからといって、次戦も勝つとは限らない」。真面目な性格の、赤倉らしい言葉だった。日本一になるまで気を抜かず戦い抜く。最後まで相手に向かっていく赤倉に注目だ。 記事:早川茜(関西学院大学体育会学生本部編集部・関学スポーツ) |
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LB #99 都賀創(4年) ディフェンスの中心を担うのは、この男だ。LB都賀創は、今年度春シーズンからスタメンに定着。秋は全試合で1枚目として出場し、活躍を続けてきた。自身の強みを尋ねると、「あまりないけど、何事も平均点くらいでやれるところですかね」と謙虚な姿勢。しかし、その努力は並大抵のものではない。 都賀は、アメフト未経験でファイターズに入部した1人だ。高校時は関学高等部で野球部に所属。ポジションは内野で、3年時の最高成績は県ベスト8だった。大学でも野球を続けるつもりでいたが、あるとき転機が訪れる。引退後、高等部ファイターズの選手らを含む同級生と筋トレ中に、「もしアメフトをやるならどこのポジションか」という話題に。都賀は、何の気なしに「LBやったらできるやろ」と口にした。すると、仲間からは総攻撃。「アメフト部には強いやつがいっぱいおる。あいつらには勝てへんぞ」。この言葉が、元高校球児の心に火を付けた。「やってやろう」。悔しさを胸にファイターズの門を叩き、アメフト漬けの日々が始まった 常勝軍団の一員として、苦労を重ねた。LBはフットボールセンスがものを言うポジション。入部後、「動きのイメージが悪い」と一蹴され、試合形式の練習には入れてもらえず。すぐに周囲から取り残された。しかし、そこで腐る男ではなかった。「同期がみんな優しかったので、『お前と俺の動きの何が違うねん』って聞きまくりました」。仲間に助けられながら練習を重ねると、徐々に成長。「大変だったけど、少しずつうまくなって、少しずつ試合に出れるようになった。楽しかったです」。昨年度は、海﨑悠(21年卒)、繁治亮依(21年卒)、川崎駿平(21年卒)の4年生3人がけん引したLBパート。大きな抜け穴に戦力低下が危惧されるも、見事に甲子園までの道を走り切った。 最終学年に大役を務めた。「もともとアサインメントを考えるのが好きだった」と語る都賀は、今年度ディフェンスリーダーに就任。大村監督も、「非常によくやってくれている」と太鼓判を押す。熱い闘志を胸に走り続けた4年間。特別な舞台・甲子園で自身のアメフト人生に幕を下ろす。「甲子園ではあまり目立った活躍ができていないので、最後にビッグプレーを起こしたい」。ディフェンスの心臓部が、聖地の真ん中で意地を見せる。
記事:山西葉月(関西学院大学体育会学生本部編集部・関学スポーツ) |
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DB #25 竹原虎ノ助(4年) 今年もこの男が甲子園ボウルで大暴れする。エースDB竹原虎ノ助の強みは「ボールへの嗅覚」。誰よりも素早い反応で、一対一を制する。関西学生リーグ優勝決定戦でも、その実力を見せつけた。宿敵・立命大との対戦。3点差に迫られた第3Qで、相手の放ったロングパスをゴール前でキャッチ。見事TDを阻止した。第4Qでは、またもインターセプトを決め、この日一番の歓声が沸き起こる。しかし、「取って当たり前のボールだった」と、涼しげな表情の竹原。ビッグプレーも、ディフェンスを引っ張る彼にとっては当然のことだった 華々しい活躍の裏には逆境を乗り越えてきた過去がある。2年時からスタメンとして出場するも、立命大WRとの競り合いに勝てず悔しさを味わった。どんな相手でも、「自分が倒す」と心に決め、ひたすらに一対一を想定した練習を重ねる日々。そうして挑んだ昨年度、関西トーナメント決勝での活躍は記憶に新しい。試合時間残り5分を切り、1点を追いかける関学。緊迫した状況の中、竹原のインターセプトが光をもたらした。残り3秒のFGに望みをつなげ、チームは見事逆転勝利。悔しさをバネに成長した姿を見せつけた。 責任感が芽生えた。「下級生の頃から試合に出させてもらっている。自分がエースの自覚を持たないと」。気を引きしめ、副将として迎えたラストイヤー。だが、春シーズン最終戦では関大にまさかの敗北を喫した。悩みながらも、自身の詰めの甘さを痛感。「とにかく全ての勝負事に勝つ」と覚悟を決めた。練習から試合同様に勝利にこだわり、来る秋シーズンへ準備を怠らなかった。 完璧なプレーを追い求める。「長所を伸ばすことより、課題や弱点をつぶすことを意識してきた」。クイックネスの向上を課題に挙げていた竹原。外部から陸上の講師を呼ぶなど、徹底して練習を重ねタイムを縮めることに尽力。「隙のないディフェンス」を体現させるべく、さらなる成長を遂げた。磨き上げられた武器を携え、学生最後の試合に挑む。幾度となく会場を沸かせた男が、甲子園の大舞台でも歓声を浴びるだろう。
記事:早川茜(関西学院大学体育会学生本部編集部・関学スポーツ) |