news三菱電機杯第78回甲子園ボウル展望 by HUDDLE

2023.12.16

関西学院大史上初の6連覇の条件と

法政大アップセットの可能性

 

1217日、阪神甲子園球場で行われる全日本大学選手権決勝・三菱電機杯第78回毎日甲子園ボウルは、8年連続57回目出場の関西学院大学ファイターズ(関西学生1位)と2年ぶり19回目出場の法政大学オレンジ(関東大学1位)が対決する。関西学院大は大会史上初の6連覇、法政大は2006年の第61回大会以来17年ぶり6回目の優勝を目指す。

 

甲子園ボウルにおける両チームの対戦は今回で9回目。過去8回の対戦成績は関西学院大が431分と僅かに勝ち越しているが、拮抗していると言っていい。直近の対戦は2021年の第76回大会で、477と関西学院大が大勝している。

 

対戦相手によってラインアップを変更できる選手層

 

今季の関西学院大はリーグ最終節の関西大に1316で敗戦。61敗で並んだ関西大、立命館大との抽選によって全日本大学選手権出場権を勝ち取った。運も実力の内というが、6連覇への道はつながった。

 

2019年に立命館大に敗れて以来、4年ぶりにリーグ戦での敗戦を喫した今季のチームは実力が低いのか、それとも負けを知って強くなることができるポテンシャルを持っているのか。甲子園ボウルはまさにその真価が問われる戦いになるが、少なくとも選手のポテンシャルを見ると後者の可能性が高いことがわかる。

 

攻擊はQB星野秀太(2年)と、鎌田陽大(4年)の2枚看板。リーグ終盤戦の立命館大戦と関西大戦は星野が先発を務めたが、これは、スピードと突破力のある両チームの守備フロントを星野のモビリティでかわす意図が込められていた。関西大戦では星野が第2Q早々に負傷退場してしまったため、モバイルなタイプではない鎌田がプレッシャーを浴びる結果になった。甲子園ボウルで対戦する法政大守備も今季はプレッシャーを積極的に仕掛けてくるスタイルになっているが、星野が甲子園ボウルに向けて回復しているのは好材料だ。

 

今季の攻擊の柱になっているのは豊富なRB陣と大型メンバーが揃ったOL陣によるランだ。RB伊丹翔栄(3年)は、フィジカルアップに取り組み、持ち前のスピードに力強さが加わった。ゴール前やショート・ヤードの状況では澤井尋(3年)、大槻直人(4年)のパワーバック陣が担っている。昨甲子園ボウルMVPRB前島仁(4年)は今季、コンディショニングに苦しんだが、甲子園ボウルに照準を合わせて調整。最後の甲子園ボウルでどんなパフォーマンスを魅せるかにも注目だ。

 

レシーバーで注目は今季急成長を遂げた五十嵐太郎(2年)だ。高校サッカー出身ながら、スピードとシュアハンドを武器に中心選手の存在感を発揮している。星野と同学年ということもあり、普段からコミュニケーションは円滑。星野も「投げやすいターゲット」と信頼を置いている。リーグ戦では鈴木崇与、衣笠吉彦の4年生コンビがあまり目立っていなかった。彼らが学生生活最後の甲子園ボウルに全力発揮を懸けていることは間違いない。

 

隙がない守備。唯一の懸念はCBの選手層

 

守備はフロントが強力だ。浅浦理友(4年)、トゥロタ―・ショーン礼(4年)のDEコンビのプレッシャーは学生界随一と言っても過言ではない。インサイドはスピード派のDL稲村武之介(4年)、180センチ118キロと大型ながらスピードもある川村匠史(3年)、重くて硬いヒットができる山本征太朗(3年)、オールマイティーな林海央(4年)の4人を、対戦OLのタイプと使用する戦術によって使い分けている。

 

LB永井励(3年)、主将LB海﨑琢(4年)もハードにプレーできる。ニッケルの東田隆太郎(2年)は、LBDB的な役割だけでなく、DEのような役割も担うことができる。SFにはリーグ戦7インターセプトを記録した中野遼司(3年)が構える。レシーバーがオープンになっているように見せて、投げた瞬間に前に入ってボールを奪う技術は秀逸だ。SF山村翔馬(4年)は戦術理解に長けている。

 

懸念されるのはCBだ。ベストラインアップは、高校サッカー出身ながら、大産大附属、東海大、パナソニック(当時は松下電工)でDBとして活躍した父・髙橋英雄のDNAを持つ髙橋情(4年)と、1年時から出場経験を持つ波田和也(4年)だが、関西大戦は波田が出場できず、そのポイントを突かれたことが失点に繋がっていた。

 

法政大パッシング攻擊のポテンシャル

法政大は得点力に苦しんだシーズンだった。試合平均18.5得点はリーグ3位ながら、第3節の立教大戦(63)はTDなしという結果だった。一方で、第2節の慶應義塾大戦の前半は、猛烈なパッシング攻擊を展開。QB谷口雄仁(3年)は前半だけで2824回成功

260ヤード3TD0INTという好成績だった。後半は2インターセプトを喫し急失速したのは、全身が攣るトラブルを抱えて出場し続けたためだった。1年時から交代出場の機会があったとはいえ、新先発QBとして自信のなさ、経験の少なさがその後の不調の原因だったが、厳しい戦いを経てたどり着いた甲子園ボウルでハイパーなパッシング攻擊が開花する可能性は十分にある。

 

谷口を支えるレシーバー陣も豊富だ。全日本大学選手権準決勝AOBAボウルでMVPを受賞したガッツ溢れるプレーがウリの白井圭(4年)、スピード派の主将WR滝澤叡(4年)、卓越した身体能力でビッグプレーを生み出す高津佐隼世と、抜群のスピードとクイックネスを生かしたラン・アフター・キャッチに長ける須加泰成の2年生コンビ、1年生ながらメインターゲットの一人として上級生と遜色ない信頼を得ている阿部賢利、シーズン中に評価を上げた宮﨑航也(3年)と、高いレベルのメンバーが揃っている。

 

シーズンを通じてコンディショニングに苦しんだRBも廣瀬太洋(3年)、鈴木悠真(3年)が経験を積んで試合を重ねるごとに成長。啓明学院出身の新井優太(4年)は勝負どころで必要な前進を稼げるガッツがある。関西学院大の系列校出身者でもあり、今回の対戦に人一倍燃えている一人だ。対関西学院大戦で攻擊力を発揮するために鍵を握るのがOL陣だ。学生界屈指の強力メンバーを揃える関西学院大の守備フロントのプレッシャーから谷口を守れるか、ランナーたちの走路を切り開けるかがすべての鍵を握っている。

 

『攻めて守る』法政大守備

 

法政大守備は長年、ゲインは許してもTDは許さない粘り強く戦うスタイルだった。しかし、今季はコンセプトを一新。『アタック・オン』のスローガンを標榜し、積極的に攻めてボールを奪いにいく方針だ。守備コーディネーターを務めるのはSA(スチューデント・アシスタント)の千同浩貴(4年)だ。

 

DL3年生ながら副将に抜擢された山田晋義と、しつこいパシュートがウリの川出奨悟がインサイドを固める。DEは川村達哉(3年)、秋山友樹(4年)、髙橋和音(3年)、伊藤右徳(4年)のスピード派たちがローテーションで担っている。特に出色は高橋。圧倒的なスピードと獰猛なプレーぶりはまさに『アタック・オン』のスローガンを体現する選手だ。LBは堅実かつスピーディーな須藤晟也(3年)、ラン、パス共にオールマイティに守れる川村智紀(4年)が柱。DBは慶應大戦、立教大戦でチームのピンチを救うインターセプトを演じ、関東最優秀選手に選出されたSF長島佑作(4年)、182センチ82キロと大型で、フィジカルにプレーできるSF南雲昇太(3年)、スピードに優れた小田隼士(3年)とボールへの嗅覚を持つ猪尾健人(4年)のCBも『攻めて守る』ことができるメンバーだ。

 

78回大会は両校共に守備が安定しているだけに、攻擊がどれだけ力を発揮できるかが勝敗を分けるポイントになるだろう。関西学院大は、中央からのプレッシャーに弱いという弱点を関西大戦で露呈した課題をどれだけ克服できたか、法政大はQB谷口がターンオーバーをなくすことができるか、1Q15分の試合をコントロールするためにはOLRBが今季最高のパフォーマンスをすることが必須になる。

 

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HUDDLE(ハドル)編集長

上村弘文

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写真提供:P-TALK  法政大学ORANGE