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topics 2016-12-15

新時代の甲子園初対決 「攻守共に隙がない関学大、終盤急成長の早稲田。甲子園初対決の見どころ」

 

大混戦の関東学生1部TOP8を逆転二連覇、東日本代表校決定戦で東北大(東北学生1位)を47-2で下し、2年連続4度目の甲子園ボウル出場を勝ち取った東日本代表の早稲田大学ビッグベアーズ。

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リーグ最終節で立命大との全勝対決を22-6で制し、2年ぶりに全勝で関西学生DivⅠを制覇。さらに今年度からの新システムで、関西学生2位にも出場権が与えられた西日本代表校決定戦ウエスタンジャパンボウルで、立命大を再び26-17で下して、2年ぶり50回目の出場を勝ち取った関西学院大学ファイターズ。

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12月18日、阪神甲子園球場で行われる全日本大学選手権決勝、三菱電機杯第71回毎日甲子園ボウルは、新たな歴史の幕開けにふさわしいフレッシュな顔合わせとなった。

両校の対戦は14年前、2002年春に西宮スタジアムで行われた関学大主催の新歓ゲーム「KGボウル」以来。この時は33-14で関学大が勝利している。それ以前の対戦になるとさらに52年遡る。

日本フットボール界のルーツ校の一つである早稲田と、甲子園ボウル最多27回の優勝を誇る関学大。共に学生フットボール界を代表する伝統チーム同士ながら、これまでほとんど対戦のない両雄の甲子園ボウル初対決は果たしてどんな展開になるのか。

今季の戦いぶりから、試合の見どころを探ってみた。

 

  • スキルポジションに人材を揃えた攻撃と変則守備で初優勝を狙う早稲田

 

今季の早稲田は、戦いを重ねるごとに成長を遂げてきたチームだ。第2節の日体大戦はタイブレイク戦の末の辛勝。第3節の中央大戦は1点差の勝利と、序盤戦は薄氷の勝利が続いていた。第5節の慶應大戦では14-21の敗戦を喫し、一時自力優勝が無くなるピンチに追い込まれた。

しかし第6節の法政大戦で、今季初めて攻守が噛み合い32-14の快勝。リーグ最終第7節で全勝の慶應大が1敗の法政大に敗れたため、自力逆転優勝が復活した状況で、日本大を27-0で破って、初の関東学生リーグ連覇を遂げた。

 

粘り強い戦いを支えてきたのは若手中心の守備だ。昨年、甲子園ボウル出場の原動力となった主力タレントがほとんど卒業した上、数少ない昨年からの主力も、ほとんどが負傷でフル出場できない状況が続いていた。しかし、シビアな戦いで揉まれた新たな戦力たちが着実に成長を遂げてきた。

DLはリーグ戦4ロスタックル2QBサックを記録した仲田遼(3年)の活躍が目を引く。早稲田ディフェンスはDLを2人、もしくは1人しか置かない変則的な体型を使用しているため、DLには独自のノウハウが必要とされる。早大学院時代からこの守備を経験している仲田は、コンセプトを理解し、マッチした動きができる存在だ。

LBは副将・加藤樹(4年)がエース。序盤戦は負傷のためベンチに控えていたが、第5節の慶應大戦より戦列復帰。第7節の日大戦では、3ロスタックル1QBサックと大暴れを演じた。加藤不在の間にLB陣の台所事情を救ったのは9ロスタックル3QBサックと、即戦力以上の活躍を演じた池田直人(1年)。地道な努力を続けて先発の座を勝ち取った栗田嵩大(4年)も、アグレッシブに攻める守備コンセプトに則した動きができるようになった。関本岳(2年)は高校時代から特殊な守備のコンセプトを理解したメンバーとして、主戦へと成長を遂げた存在だ。

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ランやパスディフェンスで要となる2人のローバーは、元CBの久保颯(3年)と元SFの山口昂一郎(3年)が担う。いずれも下級生時から、それぞれのポジションで先発だった経験を持っている。

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DB陣は、パスカバーにおいて絶対的な信頼度を持つCB安部修平(4年)がエース。当初は、この安部と反対側のCBの成長が課題だったが、高校野球出身の小野寺郁朗(2年)が急成長し、不安が解消された。

今季の関学大攻撃はラン、パスどちらでも試合を作ることができる力と精度を持っている。その上、守備の足を止めるカウンターが基本コンセプトになっている。DLが少なく、LBとの距離がある分、一度守りに入ってしまうと関学大に大きなスペースを与えることになってしまう。

守備フロントが関学大攻撃のスキームをいかに破壊できるかが、早稲田守備から見た勝負のポイントになりそうだ。

 

攻撃はスキルポジションに昨年来のメンバーを残している。シーズン当初は歯車が噛み合わなかったが、第6節の法政大戦でQB笹木雄太(4年)が先発に定着して以降、本来の力を発揮できるようになった。

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特に今季はレシーバー陣が充実。学生日本代表の副将・鈴木隆貴(4年)は球際の強さを持つディープターゲット。日本大戦でリバースプレーからTDを挙げた遠藤健史(3年)、小兵ながら堅実な小原嶺(2年)、U19日本代表のブレナン翼(1年)ら、若手も戦力として機能している。また、レシーバーのリーダーを務める西川大地(4年)は、シーズン途中にインサイドレシーバーに転向し、スピードとクイックネスが活きるようになり、得点源として活躍機会が増えた。

ランアタックを担うのはRB須貝和弘と、北條淳士の4年生コンビ。いずれも昨年から先発ローテーションで主戦だったが、今季からRBコーチに就任した元NFLヨーロッパ選手の中村多聞コーチの指導により、無駄を削ぎ落とした走り方を習得し、レベルを向上させた。いずれも密集を走り抜ける堅実なランができる存在だ。加えて177センチ89キロと大型の片岡遼也(2年)が、日本大戦で50ヤード独走TDを決めるなど調子をあげているのも頼もしい。シーズン当初は先発QBを務めていた坂梨陽木(3年)は、笹木が先発に定着して以降、得意のランに特化したワンポイント起用で、確実なゲインを稼ぎ出している。

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C稲葉玲央(3年)、OG樋口央次朗(4年)、香取大勇(1年)、主将OT松原寛志(4年)、島崎貴弘(4年)と並ぶ先発ラインアップは、基礎技術レベルが高い。立命大の強力なOL陣を粉砕した力強さを持つ関学大守備フロントを、彼らがいかにコントロール下に置くことができるかが、早稲田オフェンスの視点に立った勝負のポイントだ。

 

  • ラン・パス共に高精度の攻撃と隙のない守備で28回目の優勝を狙う関学大

 

ライバル立命大に初めて2度勝利して、2年ぶりの『聖地』甲子園に帰ってきた関学大。2011-14年の学生4連覇時よりも、さらにパワーアップした印象だ。

攻撃はシーズン序盤こそ、もたついた戦いぶりだったが、第5節で関西大に37-2の快勝をして以降、尻上がりに調子を上げている。

本来の力を発揮できるようになった一番の要因はQB伊豆充浩(4年)の精神的な成長だろう。今季は先発2年目で、シーズン当初から自らの集大成が課せられていたが、地道なリーダーシップの発揮で、下級生中心のレシーバー陣の成長を促してきた。

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リーグ最終節の立命大戦で、先制TDを挙げた松井理己(2年)と、大村和樹アシスタントヘッドコーチが「今季のエース」と評する亀山暉(3年)のアウトサイドレシーバーは、長身とスピードを武器にしたディープターゲット。インサイドを担う前田泰一(3年)は、トレーニングによるフィジカル向上に成功し、捕球後のランに力強さが増した。加えて昨年までは負傷が多かった池永拓矢(4年)が好調。パスターゲットとしてだけでなく、立命大戦ではリバースから独走TDを挙げるなど、元RBの走力を生かしたプレーでも活躍している。

レシーバー以上に人材豊富なのがRB陣。2年時の2014年、第69回大会で甲子園ボウルMVPを受賞した橋本誠司(4年)は、3年時の負傷以降低調だったが、今季は序盤戦から出場を果たし、試合を重ねるごとに本来の切れ味が戻ってきた。小兵ながら守備のヒットをスピンで受け流すのが得意な野々垣亮佑(4年)は、関学大が得意とするシャベルパスやスクリーンなどのプレーに適している。 無駄のないカットバック走法の山口祐介(2年)、中央のスペースを直線的に駆け抜ける走りで、決定力が魅力の加藤隆之(4年)、ショートヤードを突破する力がある山本智也(3年)ら、シーズン序盤に試合経験を積んだメンバーが、終盤戦でしっかり機能しているのも頼もしい。

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彼らの力を最大限に引き出しているのが安定感溢れるOL陣だ。2年時から先発のC松井和史(4年)を筆頭に、5人中4人が昨年来の先発メンバーだが、唯一今季から先発の清村壱成(4年)も急成長を遂げている。

 

早稲田守備フロントは、DLが1人か2人で、LBが複雑に動き回る特殊な守備だが、同様のルックで撹乱を狙った立命大守備を攻略した実績を持っている。DLが少ない分、ランについてはある程度のゲインは見込めるが、早稲田ディフェンス陣の強みは粘り強く守ることで、相手のプレー数を増やしミスを誘うことにある。

ビッグプレーで守備の粘りを断ち切ることができるか、試合を通じて高い精度を発揮し続けることができるかが、関学大オフェンスの勝負ポイントになるだろう。

 

リーグ最少の1試合平均4.4失点の守備は隙がない。

立命館大に二度勝利した大きな要因は、DL陣が立命大OLをオーバーパワーしたことにある。1年時から主力として活躍してきたパワー派NG松本英一郎(4年)が、OLのブロックをひきつけ、関西学生QBサック1位タイのDE藤木秀介(3年)、三笠大輔(2年)、昨年、一昨年と2年連続QBサック王だったOLB安田拓(4年)が、外から刺すのが必勝パターンだ。関西学生最優秀選手の主将LB山岸明生(4年)は、ブリッツからプレッシャーをかけることも、パスカバーに下がることも高いレベルでできる。勝負どころで、ターンオーバーなどのビッグプレーを起こす能力に長けているだけに、甲子園ボウルでも勝負を決めるプレーが期待できる。LB松本和樹(3年)は、他のメンバーがアグレッシブに攻めたところを確実に仕留めるタックル力を持つ。

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関学守備の要となるナスティ(ニッケルバック)を担う松嶋秀斗(4年)は、高い運動能力を持ち下級生時から活躍が期待されていた。ウエスタンジャパンボウルでは序盤、立命大RB西村七斗(3年)への、捕球してから走らせるパスに素早く反応して前進を許さず。前半終了間際には、QB西山雄斗のパスをインターセプトに仕留めるなど、広い守備範囲を披露した。

DB陣は、1年時から先発のCB小椋拓海、SF小池直崇のベテラン4年生を筆頭に、戦術理解度が高く守備陣の頭脳的な役割のSF岡本昂大(4年)らが、抜群の連携で最後尾を守る。新先発のCB横澤良太(2年)はベテラン組を凌ぐセンスを発揮し、4インターセプトを記録。関西学生リーグのインターセプト王になっている。

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どのポジションをとっても、これといった穴がみつからない今季の関学大守備だが、早稲田の攻撃はベーシックな一方で、昨年の甲子園ボウルでは、トリックプレーからモメンタムを奪い返し、反撃に出た実績がある。

初見のプレーに対してどう対応できるかが、関学大守備から見た勝負ポイントになりそうだ。

 

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記事;上村弘文(HUDDLE MAGAZINE)

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ハドルウェブ

https://huddlemagazine.jp

 

写真;関東学生アメリカンフットボール連盟

早稲田スポーツ新聞会

http://wasedasports.com/

P-TALK

http://www.p-talk.jp/

 

編集;畠中隆好(officeNEAR/甲子園ボウルPJT)