東日本(早稲田):02注目選手

OL#71松原寛志(4年/主将)

『超越』。シーズン初めにこのスローガンをかかげて、ようやく昨年を超越する機会が巡ってきた。2年連続で甲子園ボウルに出場するBIG BEARS。決してここまでの道のりは楽ではなかったが、全員で掴んだ甲子園への切符。各選手の活躍が光ったリーグ戦であったが、常に先頭でチームを牽引してきた漢がいる。主将OL松原寛志だ。

「プレーで引っ張っていくという部分でチームを勝たせたかった」。そんな想いで主将に立候補した松原。「一番努力している」(樋口)、「チームの中で絶対的な存在になっている」(鈴木隆)と、副将達からの信頼も厚く、皆が認めるチームの大黒柱だ。200人を超える大所帯を率いる松原の強み。それは身体の強さとプレー理解力の高さだ。3年次からほぼ全試合に出場している松原だが、大きな故障はこれまでない。180㎝・113㎏の恵まれた体格を生かしたブロッキング、パスプロはどこをとっても一級品。また試合中に下級生に声をかけるといったメンタル面でのサポートが非常にうまい。松原率いるOLユニットが、強力なDL陣を要する関学大ディフェンスに風穴を開けてくれるだろう。

これまで世界大会に2度選出されている松原は、昨年の甲子園ボウルも経験し、大舞台でのプレーはお手のものであろう。対峙することになった関学大の主将LB山岸明生は、U19(19歳以下日本代表)で共に戦った同志だ。互いに主将という立場で臨む今大会に、何か深い縁を感じる。また、関東勢は甲子園ボウルで10連敗中と結果を残せていないだけに、チームとしてはもちろんだが、東日本代表として勝利への気概に期待したい。

高校3年次に関西学院高を下し、日本一を経験している松原だが、「甲子園ボウルで勝って、初めて学生日本一になる」と語った。関学大とは甲子園初対決となるが、因縁のある相手であることには変わらない。『日本一』に向け、越えなければならない壁。それが甲子園ボウル。4度目の正直となるか。いまその戦いが始まろうとしている。

記事;大槻竜平    写真;新津利征

QB#12笹木雄太(4年)

2年連続で甲子園の舞台に立つBIG BEARS。昨年のリベンジに燃えるチームにあって、ひときわ強い思いで臨む選手がいる。笹木雄太。正確なパスでチームに貢献する4年生QBだ。

笹木は早大学院高の出身。在学中の3年間はいずれもクリスマスボウル出場を果たし、日本一のチームを支えてきた。高校日本一の高みを知るからこそ、未だ果たせぬままの大学日本一へ、強い憧れを持っている。

早稲田のQBは、激しい競争が行われてきたポジションだ。パスの精度が武器のサウスポー笹木と、ランも交えて戦う1学年下のモバイルQBの坂梨。今シーズンは2人の併用が続いた。序盤は笹木の不調もあり、坂梨がスターターに名を連ねることも多くなっていた。しかし、慶應大戦で4Qから途中出場すると、チームは敗れたものの、スターターの坂梨を上回るゲインを稼いだ。笹木はその後、4年生として下級生とコミュニケーションを積極的に図りチームを引っ張る。直後の法政大戦では先発に抜擢され、持ち味を発揮して勝利に貢献。日本大戦、東北大戦でもスターターとして出場し、精度の高いパスで好調ぶりをアピールした。

濱部監督は「見違えるような成長を見せている選手」として笹木の名前を挙げ、「目に見えるような形で自分自身の壁をブレイクスルーしてくれた」と高く評価している。プレーでも、4年生としてチームを引っ張るという面でも、笹木はチームに欠かせないピースとなっている。

濱部監督は「QB二人の良いところを引き出してオフェンスを展開したい」と語っており、甲子園の舞台でも笹木と坂梨の併用が予想される。しかし、ラストイヤーに賭ける笹木の想いは強い。昨年はケガに苦しみ、甲子園ボウルでも満足のいく結果は残せなかった。

「甲子園でやり残したことを成し遂げて、ライスボウルへつなげたい」。今年の初め、笹木はこう語った。2年連続の大舞台へ、機は熟した。ラストイヤーで、昨年のリベンジ、そしてさらなる高みを目指す笹木。その左腕から繰り出される鋭いパスに注目が集まる。

記事;元田蒼    写真;新津利征

RB#28須貝和弘(4年)

BIG BEARSのRB陣の選手層の厚さには定評がある。その数はざっと20人を超え、チーム内でも互いに刺激し合い、切磋琢磨する姿が見られる。その中でも早稲田が誇るエースRB須貝和弘は、関東大学リーグ戦最優秀選手に選出され、今や関東を代表するプレーヤーとなった。須貝は「早稲田」に入学して以来、早大学院時代も合わせて7年間、常に早稲田のホープであり、そしてエースであった。

春シーズン終了後、須貝は自身の強みでもある縦へきりこむ鋭いランのスタイルに加え、しっかりと相手を見ることでのデイライトを意識するようになった。ランプレーの基礎であり理想形とも思えるような、相手をものともせず縦へ走り抜ける勇気と、プレー中の視野の広がりが、早稲田のエースをより一層強くさせた。その甲斐あって、驚くべきことに須貝は、関東大学秋季リーグ戦全ての試合で、TDを獲得している。チームへの貢献度と抜群の安定感は、絶対的だ。

アメリカンフットボールの名門・早稲田学院に入学した須貝は、高校3年生の時にクリスマスボウルで優勝し、その際に最優秀バックス賞を受賞している。さらにその相手もまた、関西学院高だった。須貝にとって宿命とも思えるこの対戦カードは、4年間の時を経て、再び火蓋が切られる。混戦の関東学生リーグで掴み取った2度目のラストチャンス。この合戦で再び有終の美を飾り、学生界で最も優れたRBの称号を手にいれることは容易ではない。しかし、関東随一のRBという肩書きは、その称号を手に入れ得るために十分すぎるほどだろう。

須貝は以前、「法政大戦までの2週間で一段階上のチームの団結力を肌で感じられた」と語っていた。甲子園ボウル出場が決まった東北大戦からの2週間に、BIG BEARSはどのような成長を遂げるのか。勝てるチームになるためには、試合がある限り成長をし続けなくてはならない。見据える先は甲子園よりもまた遠くに存在する。待ち構える東京ドーム。学生王者と社会人王者の熾烈な争いに、コマを進めるのは早稲田大学なのだろうか。“超点”目座し、須貝は勇往邁進する。

記事;藤田さくら    写真;大槻竜平

LB#7加藤樹(4年/副将)

関東二連覇を決めた瞬間、試合中は常に冷静な男が誰よりも感情を爆発させた。副将LB加藤樹。抜群の身体能力とスピードを誇る、BIG BEARSの守備神だ。ケガに苦しんだ今季、万全な状態で臨めた試合こそ少なかったものの、チームの中心にはいつも加藤がいた。

1点差に泣いた昨年の甲子園ボウル。3年生だった加藤は試合後、「自分自身がもっと成長しないと誰もついてこない」と語った。大舞台で悔しさを味わい、芽生えたチームをけん引していく覚悟。その覚悟を胸に、今年は副将、そしてディフェンスリーダーとして日本一を目指すためのチーム作りを行ってきた。強くなるためにはどんな問題からも目を背けず、根本から解決する。時には厳しい意見を言うこともあったという。妥協のないストイックな姿勢は、常に仲間へ刺激を与え、チームメートからは揺るぎない信頼を得てきた。しかし今季、加藤自身はケガに苦しむこととなる。春の立命大戦以降、フィールドにその姿はなかった。シーズンアウトも視野に入るような大きなケガを繰り返し、肉体的にも精神的にも苦しい時間が長く続く。その状況下でもチームのために何ができるのか、自分でコントロールできる最善の策を尽くして、復帰に向けての準備を進めてきた。

加藤の姿がフィールドに戻ったのは、関東学生秋季リーグで全勝対決となった慶応大戦。身体の状態は決して良いとは言えなかったが、負けられない試合には頼れる副将が必要だった。しかしこの試合で再び負傷。チームも勝つことはできず、「ふがいない」と試合を振り返った加藤。久しぶりの実戦で慶応大に喫した悔しい敗戦は、日本一への執念をより強くさせるものだった。

迎えたリーグ最終戦。勝てば関東制覇が決まる日本大戦で、加藤は持ち味を存分に発揮する。自身でも強みと語る抜群のスピードを活かしてOLを瞬く間にかわし、QBサックを1度、ロスタックルを3度決める大活躍。その全身からは、おののくような気迫がみなぎっていた。

仲間を支え、仲間に支えられ、過ごしてきた今シーズン。苦しい1年を超えて、精神的にも大きく成長してきた。仲間と勝ち取ったこの大舞台で、加藤らしいプレーをきっと見せてくれるだろう。ついに帰ってきたチームの守護神はプレーで、気迫でBIG BEARSを勝利へと導く。

記事;太田萌枝    写真;大槻竜平

DL#94佐野泰弘(4年)

早稲田堅守の基点であるDLは、昨年の村橋、庭田のツインタワーが卒業し、一番の戦力低下が危ぶまれた。しかし、ゼロから始まった状況で4年生としての覚悟を持って活躍し続ける男がいる。DL佐野泰弘はいつでも最前線で体を張り続ける。

昨年ほどタレントが揃っていないDL陣は「相手の特徴をしっかりつかんで、それに対応する」ことを念頭に置きプレーをする。佐野自身、昨シーズンの出場機会は多くはなく、大学からアメフットを始めたということもあり、経験豊富なプレーヤーとは言えなかった。しかし、持ち前のフィジカルとスカウティング能力でそれをカバーし、春シーズンから驚異の成長を遂げる。そして臨んだ秋季リーグ戦では、攻める守備・BIG BEARSディフェンスを体現し、リーグ最少失点に貢献した。

ことしのDLは、ユニットとしての完成度が高い。3年生の仲田、武上に、2年生の斉川。1年生でも箕輪が出場し活躍する。下級生の台頭に佐野は「本当に助けられている」と、同時に危機感も感じている。法政大戦では後輩の調子がよく、出場機会に恵まれなかった。絶対的エースがいないからこそ、スタメンの移り変わりも激しい。最終学年を迎え「もっと派手にやりたい」と、甲子園での躍動を誓う。

佐野の特徴は突破力。ラグビー仕込みの推進力でOLの壁を破壊し、LBが突破する道を切り開くのだ。佐野は自らを「LBの駒」と称し、QBサックやロスタックルの機会を与える。

対するは、王座奪還を企む関学大。しかし創部史上初の2連覇を達成し、掴んだ学生日本一へのチャンスを無駄にはできない。相手が誰であろうと関係ない。狙うのは優勝。目指す舞台は正月の東京ドーム。早稲田の火付け役が会場を包み込むビートと一体になる。

記事;高橋団     写真;大槻竜平

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DB#21小野寺郁朗(2年)

今季の早稲田ディフェンスを語るにあたって、この男の存在は外せない。決して高くない身長に、アメフット選手らしからぬ細身の体型。しかしフットボールを始めてわずか1年弱で、強豪早稲田のレギュラーに堂々と名を連ねたことが、何よりも能力の高さを物語る。目を見張る俊足、驚異的なジャンプ力、そしてアサインメントにしっかりと順応するインテリジェンスで、小野寺はチームのセカンダリー陣に確固とした安定感をもたらした。

高校アメフット界の名門・早大学院出身の小野寺だが、高校時代は硬式野球部に所属し副将を務めていた。昨年未経験者としてBIG BEARSに入部し、いきなり卓越した身体能力を発揮。今季のリーグ戦からはレギュラーに抜てきされる。

ディフェンスリーダーの副将LB加藤をして「化け物級」、同じCBのDB安部修平も「あいつには勝てない」とまで言わしめる実力は本物。試合では数々の相手のエースレシーバーと対峙し、その勝負に打ち勝ってきた。

最も存在感を発揮したリーグ終盤戦。第5節の慶応大戦に敗れ、崖っぷちのチーム。さらに待ち受けるのは、高いパス攻撃の精度を誇る法政大、日本大の二校。経験の浅い小野寺が受けたプレッシャーは、並ではなかったはずだ。しかし、シーズンのターニングポイントになった法政大戦では、的確なパスカバーで相手のレシーバーをボールに触れさせず。さらに日本大戦でも、危険なロングパスを次々と封じ、チームの完封勝利に貢献。鋭い洞察力と、素早くプレッシャーをかけられるアジリティは、強豪との対戦でもいかんなく発揮され、関東制覇の原動力となった。

甲子園で相対する関学大もまた、強力な攻撃ユニットを擁する完成度の高い相手だ。関東の雄を封じてきた早稲田ディフェンスとて、もちろん簡単な相手ではない。しかし小野寺は、自身の課題を挙げる一方で、「あのコーナーバックに投げてはいけないと相手に思わせたい」と貪欲さをのぞかせている。

基本に忠実ながら、いつも高いレベルで相手を抑える若きコーナーバック。今回も、相手レシーバーが早稲田陣内を自由に走り回ることは出来ないだろう。

記事;喜田村廉人     写真;新津利征

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早稲田スポーツ新聞会   http://wasedasports.com/
編集;畠中隆好(officeNEAR/甲子園ボウルPJT)