三菱電機杯第73回毎日甲子園ボウルの見どころ

3年連続52回目出場の関西学院大学ファイターズと、2年ぶり5回目出場の早稲田大学ビッグベアーズ。12月16日、阪神甲子園球場で行われる三菱電機杯第73回毎日甲子園ボウルは、2年ぶり2回目の顔合わせとなった。2年ぶり29回目の優勝を目指す関西学院大と、創部85年目にして初栄冠奪取を目指す早稲田大の対戦の見どころを探った。

【関西学院大攻撃✕早稲田大守備】
QB奥野・西野・光藤の『青い三連星』vs
大量20ターンオーバーを奪った早稲田守備

リーグ戦一試合平均32.3得点、総獲得374.6ヤード、ラン獲得180.9ヤード、パス獲得193.7ヤード。攻撃の主要記録すべてにおいて関西学生リーグ1位となっている今季の関学大攻撃だが、特筆すべきは一人の突出した存在に頼った記録ではないということだ。今季の攻撃を象徴しているのが、QB奥野耕世(2年)、西野航輝、光藤航哉(共に4年)の3QBの併用だ。

今春から先発起用されてきた奥野は、小学校1年時からQBとしてプレーしてきた経験の持ち主。プレーが崩れた時も、動きながらターゲットを探してパスを決める能力に非凡な才能を持っている。勝負どころでも動じないメンタルタフネスも持っている。とはいえ関学大では先発1年目の下級生である。昨年は先発として攻撃を率いた西野と主将の光藤を交代起用することによって、奥野の精神的負担を軽減し、持ち味である思い切りの良さを持続させることに成功している。
西日本代表校決定戦の立命館大戦は、奥野が3インターセプトを喫する不調で、第4Q中盤時点で2ポゼッション差をつけられていたが、光藤と西野が併用されていたからこそ、臆せずパスを投げ続けることができた試合だった。

レシーバー陣は随一のスピードを持つ小田快人(4年)、奥野とのコンビネーション抜群の阿部拓朗(3年)、そして、昨年の甲子園ボウルで2プレー目に負傷退場を強いられ雪辱を期すエース松井理己(4年)と学生界を代表するメンバーが揃っている。

早稲田大守備は、一試合平均パス喪失距離241.7ヤードと関東学生TOP8最下位。数字上はパス守備に課題を残しているように見える。しかし見逃してはならないのは、TOP8随一の6試合合計20ターンオーバー(インターセプト14/ファンブルリカバー6)を奪っている点だ。優勝決定戦となったリーグ最終節の法政大戦では、大量5ターンオーバーを奪取したことが、24対20の勝利の原動力となった。

今季は体調不良で初戦から欠場していたが、復帰戦となった法政大戦でいきなり2インターセプトを記録したCB小野寺郁朗(4年)、小野寺が欠場している間に出場機会を得て急成長を遂げ、シーズン4インターセプトを記録したCB阿部哲也(4年)、守備の頭脳的な役割で3インターセプトのR高岡拓稔(3年)らが中心的な役割を担っている。

関学大QB奥野が3インターセプトを喫した西日本代表校決定戦は、守備フロントのプレッシャーを浴び続けたことが一つの要因になっていた。リーグ戦4QBサック、8.5ロスタックルを記録し、関東学生最優秀選手賞を受賞した主将DL斉川尚之(4年)を中心とする早稲田守備フロントが、奥野にプレッシャーを浴びせることができるか、それとも光岡昌典(4年)率いる関学大OL陣が、奥野を守りきることができるかが、関学大攻撃と早稲田大守備の攻防の最大のポイントになりそうだ。

【早稲田大攻撃✕関西学院大守備】
パッサーとして覚醒した早稲田大QB柴崎vs剛柔自在の関学大守備

関東学生1位となる一試合平均32.3得点、総獲得337.5ヤードを記録した早稲田大攻撃だが、パスで守備を広げたところをランで突くのが必勝パターンだ。6月の大学世界選手権で日本代表攻撃を率いたQB柴崎哲平(3年)は、リーグ戦127投77回成功(60.6パーセント)1143ヤード獲得。11TD、6被INTで関東学生1位のパス成績を記録。6回の被インターセプトの内、3回は未完だった初戦の日体大戦で喫したもので、以降の戦いでは安定したパス攻撃を展開している。交代起用されていた昨年はWRブレナン翼(3年)にパスが偏る傾向があったが、今季は27回捕球509ヤード5TDのブレナン、22回捕球309ヤード4TDの遠藤健史(4年)、12捕球180ヤード2TDの高地駿太朗(4年)と、特定のターゲットに関係なく守備カバーの弱点を的確に突けるようになった。

ランの主役は105回走610ヤード7TDを挙げて関東学生リーディングラッシャーとなったRB元山伊織(4年)。リーグ第6節の中央大戦では、負傷で戦列を離れていたパワーバックの片岡遼也(4年)が57ヤード独走TDのビッグプレーで復帰をアピール。甲子園ボウルでは本来想定していた併用ができる見込みだ。

対する関学大守備は平均5.1失点、ラン喪失87.9ヤード、パス喪失103.0ヤードと、攻撃同様守備の主要スタッツも、すべてリーグ1位の成績を残している。DLは2年時から出場しているDL三笠大輔(4年)に加え、184センチ119キロと大型のDL藤本潤(4年)が急成長。リーグ4位となる3.5QBサックを挙げた他、ランプレーに対してもロスタックルを量産している。LB陣は2年生ながらタックルが確実な海﨑悠、4DL時にはDEとしてもプレーできる大竹泰生(3年)、DLとLBの間、1.5列目から相手のブロッキングスキームを破壊する繁治亮依(2年)らの活躍が目立っている。DB陣は2年時から先発のCB横澤良太(4年)を筆頭に、CB木村翔太(4年)、SF畑中皓貴(3年)の主戦Bたちが、それぞれ1インターセプトと穴がない。

リーグ最終節の立命館大戦では、守備フロントの変化とDEを思い切り内側に突っ込ませるラッシュで、QBにプレッシャーをかけて立命館大の攻撃スキームを破壊、2インターセプトを奪取した。また西日本代表校決定戦での再戦時は、中央のランプレーに前進を許したものの、得点圏で粘って1TD、2FGに抑えた。強襲して主導権を握ることも、我慢強く耐えることもできるのが関学大守備の強みだ。

早稲田大の攻撃が力を発揮するためには、関学大守備フロントのプレッシャーから、QB柴崎を守り抜く必要がある。T金子竜也(4年)、香取大勇(3年)、G広瀬直紀(3年)、松林太毅(3年)、C橋口慶希(2年)と並ぶ早稲田大OL陣は、リーグ最終節の法政大戦で苦戦を強いられていた。甲子園ボウルまでの3週間で、関学大守備フロントのラッシュをかわす戦術的工夫と合わせて、コンビネーションの再整備がどれだけできたかが注目される。

記事;上村弘文(月刊ハドルマガジン)
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