2020-12-12

甲子園ボウルプレビュー〜赤と青『宿命』の対決

三菱電機杯第75回毎日甲子園ボウルは、『ダイヤモンド・アニバーサリー』にふさわしい対決が実現した。

5年連続54回目の出場で、3年連続31回目の優勝を目指す関西学院大学ファイターズと、3年ぶり35回目の出場で3年ぶり22回目の優勝を目指す日本大学フェニックス。甲子園ボウルでは30回目の対戦で、これまでの成績は日大が17勝10敗2分と勝ち越している。3年前の対戦も23対17で日大が制している。

2018年の春に起こった『反則タックル問題』以降、交流を断っていた両雄だが、甲子園ボウルがその再開の場となったのも宿命といえるだろう。

ラン・パス共に強力な関学大攻撃

関西学生ディビジョン1トーナメント3試合平均35.3点、ラン平均220.0ヤード、パス平均227.0ヤード、総獲得429.0ヤードを記録している今季の関学大攻撃は、ラン、パス共に高いレベルでバランスが取れている。ラン攻撃の主役は豪華な顔ぶれがずらりと並ぶRB陣だ。

圧倒的なスピードを持つエースRB三宅昂輝(4年)を筆頭に、オープンだけでなく密集も走れる前田公昭(3年)、FBの役割も担えるパワー派の主将・鶴留輝斗(4年)、三宅と同等のスピードを持つ齋藤陸(4年)と、他チームならば誰もがエースを担える実力と、それぞれに個性を持ったメンバーを揃えている。若手中心で当初不安視されていたOL陣も、積極的に前に出るブロックを展開し、彼らの走りを支えている。

先発3年目、この甲子園ボウルにフットボール人生の集大成を懸けるQB奥野耕世(4年)率いるパッシングユニットも個性派が揃っている。劇的な逆転劇となった立命館大戦、逆転ドライブ時に2度ターゲットとなってボールを得点圏まで運んだWR鈴木海斗(4年)は、奥野が「困った時は投げる」と絶対的な信頼を置く。また、神戸大戦でのワンハンドキャッチが話題となった梅津一馬、昨年から先発の糸川幹人の2年生コンビも臆することを知らず、ピンチはヒーローになれるチャンスだと考えるタイプだ。

ターンオーバーを量産する関学守備

守備は平均失点13.7点、ラン喪失76.3ヤード、パス喪失123.3ヤード、総喪失199.7ヤードと例年同様安定している。注目すべきはターンオーバーの数だが、昨年の11回に対し、今年は試合数が半分以下にも関わらず、すでに6回奪っている。そのうち3回が立命館大戦で奪ったものだというのが特筆すべきことだろう。

DLは例年と比べるとビッグネームと呼べる存在が出てきていないが、立命館大戦でロスタックルを記録したDL野村幸利(4年)はトーナメントを通じて安定した働きを見せてきた。LB陣は海﨑悠、繁治亮依の下級生時から主力として出場している2人に加え、川崎駿平(4年)が台頭し、二人とローテションを組んでいる。DB陣で今一番のっているのはCB竹原虎ノ助(3年)だろう。今年1月のライスボウルで富士通のエースWR中村輝晃クラークと対等にわたりあった逸材だが、立命館大戦でゴール前に迫られた絶体絶命のピンチを切り抜けたインターセプトで覚醒した感がある。1年時から経験があるNB北川太陽(3年)は、アサイメントでカバーしきれない状況に瞬時に対応できる発想の引き出しを持っている。立命館大戦のキャッチアップの状況でインターセプトを演じたSF山本昌弥(2年)も、新先発ながら安定したプレーを見せている。

関東随一のハイパー攻撃

1試合平均35.5得点、総獲得472ヤードを記録している日大攻撃は、ラン獲得226ヤード、パス246.3ヤードとバランスがとれている。この攻撃を支える大黒柱はエースQB林大希(4年)だ。昨年までは運動能力を向上させることに注力していたが、新型コロナウイルスによる自粛期間に対戦相手のビデオの研究に取り組んだ。今季は相手守備の傾向を頭に入っている分、プレーに余裕が生まれている印象だ。桜美林大戦の負傷の回復度合いが不安材料だが、バックアップとして登場し桜美林大戦の逆転勝利を演出したQB小野祐亮(4年)も侮れない存在だ。アスレチック・アビリティこそ林に劣るものの、守備を読んでプレーすることは日大鶴ケ丘高時代から経験しており、フットボール・インテリジェンスは林以上と言っても過言ではない。何よりも小野が出場ということになれば、周囲のメンバーがいつも以上に力を出すことは、桜美林大戦で林が下がって以降に逆転したことで実証済だ。今季のスキルポジションはそれができる人材が揃っている。40ヤード走4秒4の超速RB川上理宇(4年)、タックルの芯を外すのがうまい秋元ミンジェ(4年)、思い切りのよい柴田健人(3年)のRB陣は、関学RB陣と双璧の実力を持つ。俊敏な身のこなしで臨機応変な対応ができるエースWR林裕嗣(4年)、2年生ながらエース番号の一つである22番を背負う山下宗馬、元QBで今秋急成長を遂げた岸澤淳之介(4年)、副将TE足立大成(4年)と、パスターゲットも充実している。

若手中心で伸び盛りの守備

今季の日大守備は試合平均17.3失点、総喪失302.0ヤード、ラン喪失106.5ヤード、パス喪失195.5ヤードと数字の上では課題が残る印象だが、主力のほとんどが下級生であり、試合を重ねるごとに成長を遂げているという意味では得体がしれないというのが実際のところだ。

若い守備を支えているのが充実したDL陣だ。主将DL伊東慧太(4年)が第2節の中央大戦の序盤に負傷して以来出場していないが、DEとDT両方が可能な宇田正男(4年)、1年時の甲子園ボウルにも出場していたDE樋口斎(4年)、2018年U19日本代表のDT窪田弦太郎(3年)、今季から先発ながら桜美林大戦で1QBサック、1ロスタックルを記録したDE菅原大斗(3年)は、伊東の不在を感じさせないプレーぶりだ。

また、1年時から先発のDB柴田和樹(4年)、中央大戦で悪い流れを断ち切る強烈なロスタックルを見舞ったDB光永悠馬(2年)、桜美林大戦で第4Qにたたみかけるインターセプトを奪ったSF真鍋開陽(1年)ら、DB陣には流れを変えられるプレーメーカーたちがいる。

それぞれの攻撃に
守備がどう対抗するかが勝敗の鍵

両雄共に高い得点力を持つ攻撃を持っているだけに、高得点ゲームとなることも予想される。両チームの勝敗を分ける鍵はそれぞれの守備が対戦攻撃にどう対抗できるかになりそうだ。

日大攻撃対関学守備のマッチアップは、定石で考えれば関学守備が最初に考えるであろう日大のラン攻撃阻止がうまくいくか。裏を返せばランを守る関学守備を日大攻撃がどう攻略するか。

関学攻撃対日大守備は、これまでの戦いではビッグプレーを許す傾向にあった日大守備が関学の攻撃のビッグプレーを阻止できるか。関学の攻撃の視点に立てばビッグプレーでモメンタムを掴むことができるかがポイントになりそうだ。

記事:月刊ハドルマガジン   上村弘文 https://huddlemagazine.jp/

ハドルチャンネル甲子園ボウルプレビュー 10日20時公開https://youtu.be/zro1Fjvos10