日本選手権が現在の仕組みとなって2年目の大会。より高いレベルの戦いと全国にフットボールを広げる為に最善を目指して改革、発展を目指しています。
本場、米国も同じく。今回は特別寄稿として刻々と変わる米国カレッジフットボール事情、そして2025年のポストシーズンスケジュールをお届けします。
●更なる高みを目指して:
1947年(昭和22年)に東西大学王座決定戦として始まった甲子園ボウル。甲子園ボウルは日本で体験できる最高峰の大学試合として全国TV放映され、関東・関西両学生リーグは長年に渡り日本のアメリカン・フットボール界の発展と人気をけん引して来ました。
そして2009年(平成21年)から甲子園ボウルは、全国8連盟の加盟チーム参加による『全日本大学選手権』として生まれ変わり、実質的に北海道から九州・沖縄に位置する全チームに日本一の王冠を狙える新な道が拓かれたことになりました。この最終王座決定戦への道は各連盟で秋に開催されるリーグ戦成績と、その結果によって出場が可能になるトーナメント戦(甲子園ボウルトーナメント)を勝ち抜く必要があります。
甲子園ボウルトーナメントは8連盟9校の出場校枠で始まったその誕生以来、出場校数や組み合わせブラケット形式などに毎年微調整が加えられ、2024年からは遂に全12校、更にはブラケットの東日本・西日本と言う枠組みが完全撤廃されるなどの経緯を経て真の最強2チームが激突する現在の形式となりました。全国に散らばる約180校が所属する地域色豊かなリーグ戦、その後のThe Road to Koshien Bowl(甲子園ボウルへの道)とも言える甲子園ボウルトーナメント戦を含め、頂上決戦たる甲子園ボウルへの道の改革に大地殻変動が起きていると言っても過言ではありません。
そんな現在、日本の大学アメリカン・フットボール界はまさに次世代に向け、ますます目を離せない状況になっています。
●米国カレッジ王者への道の昨今?
さて米国カレッジ・フットボール界でも長年のランキング投票による王者決定方式から、シーズン後半のトーナメント方式導入及び最終的な直接王座決定戦『カレッジフットボールプレーオフ(CFP)全国選手権*意訳』(The College Football Playoff National Championship)』の開催によって直接決着をつける方式に変化して来ました。
*地域色豊かなカンファレンスの誕生:
そもそも日本の約25倍の国土、国内だけでも6つの時間帯を持つ広大なアメリカでアメリカン・フットボール(カレッジ・フットボール)が誕生したのは今から150年以上も遡る1869年、東部ニュージャージー州のラトガーズ大学とアイビーリーグのプリンストン大学の試合だと記録されています。
この広大なアメリカの特徴として、その村、その地方が持つそれぞれの歴史や文化的、経済的な発展経緯も際立っており、そこに住み学ぶ人達には『おらが村』『おらが町』、更には『東西南北に散らばる地域=おらが地方』意識とプライドが強力で、そうした状況を背景に各地域に散らばる大学群は自分達で独自のカンファレンス(連盟・リーグ)を構成していました。
日本がアメリカン・フットボール人気で沸いた懐かしい1980年代を例に振り返ると、我々に馴染み深かったのはPAC10カンファレンス(パシフィック10=太平洋西海岸に位置する10校で構成/UCLA、南加大、スタンフォード大、UCバークレー、オレゴン大など)や、South Westカンファレンス(テキサス州を中心とした南西地区で構成/テキサス大、テキサス農工大、テキサス工科大など)です。
当時から15近いカンファレンスが全土に散らばり存在しましたが、秋からの比較的近隣のライバル校達との『おらが町』を掛けたリーグ戦でカンファレンス優勝すると、そのご褒美として年末年始に『おらが地方』を掛けて行われるボウル・ゲームに招待され一年を終えました。
例に取るとLA郊外パサデナで開催されるRose Bowlは西海岸Pac-10と五大湖周辺Big-10のカンファレンス優勝チームが相まみえ、全米東西にまたがるカンファレンスの意地とプライドを掛け、南加大vs.ミシガン大、UCLA vs.オハイオ州立大などの強豪校同士の好試合が楽しめました。正月の風物詩として毎年、日本でも全国TV放映されていたほどです。
*今は昔?米国独自のランキングシステム:
このような広域かつ複雑な状況の中で、長年に渡り採用され権威を保ち続けて来たのが我々日本人に馴染み薄いランキングシステムです。
その中心となるのが1922年から100年以上もの歴史を誇る米国アメリカンフットボール・コーチ協会所属のコーチ達が投票するCoaches Poll。そして全米に散らばるフットボール担当記者が投票するAP通信(アソシエーテッドプレス)によるAP Top 25の2大ランキングシステムが挙げられます。
指先一つで一瞬に他の試合の情報を収集出来たり、全米各地で行われる何十もの試合を複数のスクリーンで同時に観戦できたりする現代とは異なり、投票するコーチ達は自分のチーム試合以外を観られる訳もなく、フットボール担当記者とは言え入手できる情報は限られました。ややもすると伝統競合校へのひいき目、逆に弱小チームへの判官びいき、自分の住んでいる地域や卒業校への愛着など多少のバイアスがかかるのも人情と言えるでしょう。
結果、最終ランキングではシーズン序盤で強豪校相手に負け試合を記録したチームがその後盛り返し、強豪校対戦が無いままシーズンを全勝無敗で乗り切ったチームより上位にランクされる。更にはCoaches PollとAP Top 25でそれぞれ異なった米国チャンピオンチームを最終選出すると言うねじれも発生しました。
とは言うものの一般スポーツファン達は、週明けに配達される月曜朝刊で発表されるこの2大ランキング表に一喜一憂。加え各地方の新聞社やスポーツ専門ラジオ局(米国では絶大な影響力を持ちます)などの各メディアがそれぞれ独自に発表するパワーランキングも多数存在しています。現在でもレギュラーシーズン中はそうした外部情報に加え、ファン達一人一人が自分なりの視点や切り口から戦力分析かつ論評し、職場で、カフェで、ダイナーで、街ですれ違う知らぬ人との挨拶の中でさえ、おらが村、おらが地域の威信をかけたフットボール論争を大らかに楽しんでいるのです。
このようにカレッジ・フットボールのランキングシステムは毎週末の試合結果発表のみならず、昔も今もアメリカ人の生活や習慣に深く溶け込み、文化としての奥行き、そしてスポーツそのものの魅力を限りなく豊かなものとして彩ってくれていました。
●現在の全米大学一位(ナショナルチャンピオン)決定方式:
*遂に不毛の論争に決着!頂上決戦誕生!
情報通信や移動輸送技術の高度化などを背景に、1992年からはランキング上位2チームによる王座決定戦で全米一位(ナショナルチャンピオン)を決するというシステムが導入されました。その後上位4チームによるトーナメントなどと改革を続け、現在では12チームによるトーナメントと王座決定戦と言う方式になりました。
現在は『カレッジフットボールプレーオフ(CFP)全国選手権*意訳』(The College Football Playoff National Championship)』にて最終決定され、25年度シーズンは26年1月19日(月)*現地時間 にフロリダ州マイアミガーデンにあるハードロック・スタジアムにて開催される予定です。
全米大学一位とは言え、25年度現在でNCAA(全米体育協会)に所属するフットボールチームは約660校、他NAIAやNJCAAなどの別組織を含めれば全米で900校近くに上ります。このような多数かつ複雑な構成の中で当該の『カレッジフットボールプレーオフ(CFP)全国選手権』に出場可能なのは、NCAAの中でも最上位ディビジョンであるFBS (フットボール・ボウル・サブディビジョン)の合計10のカンファレンス所属校と数校の独立校を合わせた136校がその対象となります。ちなみにこのFBSは以前はディビジョンI-Aと呼ばれていましたので、日本の1部やディビジョン制と重ねて考えられるかもしれません。
●2025年度『カレッジフットボールプレーオフ(CFP)全国選手権』への道!
以下が全米王座決定戦までの道のりとなります。
*8/23(土)~12/13(土):レギュラーシーズン戦(通常は12試合)
試合は所属カンファレンスや他カンファレンスのチームとの対戦が組まれます。試合結果は白黒の勝敗のみならず点差や試合内容、相手チームのストレングス(強さ・評判)などによってランキングに響きますし、カンファレンス内チームとの試合結果は直接カンファレンス内順位に影響します。
ファンに取ってはランキングのみならず、前述のプライドをかけたライバル校同士の対戦も楽しみの一つです。レギュラーシーズン終盤の11月後半に開催される伝統の北東部ミシガン大vs.オハイオ州立大、南部アラバマ大対オーバーン大、西海岸UCLA vs.南加大などのようなライバル対決は10万席規模の巨大なスタジアムを満席にし、まさに広大な全米各地で同時に花火が上がるような華やかな週となります。
*11/4(火):CFPセレクションコミッティー・トップ25発表開始
ここから『カレッジフットボールプレーオフ(CFP)全国選手権』出場に向けた独立したランキングが毎週発表となり熱をおびてきます。シーズン序盤は前述のコーチズランキングと記者投票によるAPランキングの2つのランキングシステムがメインでしたが、ここからは当CFPランキングの順位が最重要項目となってきます。
チームを考査しランキングを発表するのは現役アスレチックディレクター(体育局長)、元選手、コーチ、ジャーナリストなど13名のメンバーで構成されているカレッジフットボールプレーオフ選考委員会。
ここからは毎週トップ25を発表、またその後のプレーオフ出場12チームを選出します。
*12/7(日):プレーオフ出場12チーム発表:
【4校】まず超強力カンファレンス(Power4と呼ばれる)であるACC(アトランティックコースト・カンファレンス)、Big 12カンファレンス、Big Tenカンファレンス、SEC(サウスイースタン・カンファレンス)の各優勝4チームには自動的にプレーオフ出場権が付与されます。
【1校】次に中堅カンファレンス群(Group6)を構成するPac-12、アメリカン・カンファレンス、カンファレンスUSA、ミッドアメリカン・カンファレンス、マウンテンウエスト・カンファレンス、サンベルト・カンファレンスの各優勝チームの中での最高位1チームにもプレーオフ出場権が付与。
【7校】残り7チームをCFPランキング上位校から選抜します。
【特例】ただし上記カンファレンスに属さない独立校であるノートルダム大学の存在や、Power4カンファレンス優勝し出場権を得てもランキング12位以下であれば12位にいるチームが出場権を奪われる、と言う特例が発生する可能性があります。
※シード権:
全12校のうち上位4チームはシード権を得ることになり、ファーストラウンドには出場しません。
*12/18(金)・12/19(土):プレーオフ・ファーストラウンド(4試合)
全12校のうち上位4チームを除いた5位~12位の8チームが4試合で相まみえることになります。
対戦は5位-12位、6位-11位、7位-10位、8位-9位となりましが、対戦上位チームがキャンパスのスタジアムか指定する試合会場を選ぶことができます。このシステムが本年度から新たに加わり、全米カレッジ・フットボールファンの大注目の的となっています。
日本の皆さんもご存じのようにアメリカのスポーツでは圧倒的なホームフィールド・アドバンテージが存在します。MLBのワールドシリーズで利用される野球場でさえ5万席程度ですが、カレッジ・フットボールでさえ利用されるスタジアム規模は7、8万席はごく普通、ランキングトップ25常連のオハイオ州立大、ミシガン大、など10万席規模のスタジアムを持つ大学は10校近くになり、下位チームの選手コールが一切聞こえない、と言う状態が予想されています。
*12/31(水)・2026/1/1(木):プレーオフ・準々決勝(4試合)
ファーストランドをバイ(お休み)したトップ4チームが上記準決勝を勝ち残った4校と、ミューチュアルサイト(中間・公平)、伝統のボウル・ゲーム会場で試合を行います。
この4試合の開催される会場は、25年度はコットン(ダラス)、オレンジ(マイアミガーデン)、ローズ(パサデナ)、シュガー(ニューオーリンズ)となります。
*2026/1/8(木)・1/9(金):プレーオフ・準決勝(2試合)
準決勝は6大ボウル・ゲーム会場の残りのフィエスタ(テンピ)、ピーチ(アトランタ)の2会場を利用します。
*2026/1/19(月):カレッジフットボールプレーオフ全国選手権
王座決戦会場となるのはハードロック・スタジアム(マイアミガーデン)。
※上記全て現地日時
●追記:
常に発展・改革を続けて来た日米のアメリカン・フットボール界。
急激に変化する社会状況の中で、人間育成の場である学生スポーツとしての存在価値と意義を高め、現状に甘んずることなく今後も更なる高みを目指して進歩し続けて欲しいものです。
―鎌塚俊徳