三菱電機杯第74回毎日甲子園ボウルプレビュー 「令和元年の学生チャンピオンに挑む両雄を徹底分析」


■攻めの姿勢で連覇を狙う関学大

4年連続53回目出場の関西学院大学ファイターズと2年連続6回目の出場となる早稲田大学ビッグベアーズ。12月15日に行われる甲子園ボウルは2年連続の同一カードとなったが、それぞれ昨年とは違った道程で決戦の地にたどり着いた。
スキルポジションのメンバーが刷新した関学大は、リーグ最終節の立命館戦で攻撃の柱であるランを僅か13ヤードに封じられて7-18と2年ぶりに敗戦を喫した。しかし、立命館との再戦となった12月1日の西日本代表校決定戦ウエスタンジャパンボウル(WJB)では、オーバーロードブリッツを得意とする立命館守備に対して、TEを複数投入してブロッカーを増やし、RB三宅昂輝(3年)をQBに配置したワイルドキャット体型を準備。この体型から三宅のパワープレーによる71ヤード独走TDでモメンタムを掴み、21-10の勝利につなげた。

今季の攻撃は獲得距離こそパスが上回っているが、リズムとテンポを作り出しているのはランだ。副将LT村田健太(4年)、LG高木慶太(3年)、C森田陸斗、RG松永大誠(共に4年)、RT牧野隼大(2年)と並ぶOL陣は、牧野以外は昨年からの先発で経験は申し分ない。

RBも昨年の甲子園ボウルで独走TDデビューを果たし、今季はエースとして活躍している三宅を筆頭に、スピードと密集をすり抜ける独特の間合いを持つ齋藤陸(2年)、168センチ89キロの突貫型RB鶴留輝斗(3年)、バランス型の前田公昭(2年)と、バラエティに富んだ個性が揃っている。また、シーズン開幕前に負傷して出遅れていた渡邊大(4年)も戦列に復帰している。

昨年、大会MVPと年間最優秀選手チャック・ミルズ杯をダブル受賞したQB奥野耕世(3年)は、インターセプトを避けるという意識が強くなるあまり、リーグ戦中は本来の持ち味である思い切りの良さやギリギリのタイミングを突く鋭さが消えていた。しかし、14試投9回成功、83ヤード1TD1被INTを記録したWJBでは、すばやくターゲットに投げ込むことができるようになった。甲子園ボウルでは、一皮むけたプレーが期待できそうだ。

レシーバーは昨年インサイドレシーバーとして活躍したWR阿部拓朗(4年)がアウトサイドレシーバーに転向。元RBの鈴木海斗(3年)、U19日本代表のエース格で、関学大でも1年生ながら主力に抜擢された糸川幹人が主戦力だ。

守備フロントで相手の攻撃スキームを壊し、DBでボールを奪うことが得意な早稲田守備に対し、攻める姿勢とボールを失わないことを両立することができるかが、甲子園ボウルにおける関学大攻撃のテーマになるだろう。

守備はフロントの圧力が強力だ。主将DL寺岡芳樹を筆頭に、DE/LBを兼任する大竹泰生(4年)、LB並の機動力を持つDE板敷勁至(4年)ら、突破力のあるDLを揃えている。DL藤本潤(4年)はロスタックルを量産した昨年と比べるとあまり目立っていないが、複数のOLをひきつけ、周囲を活かす役割を担っている。

LB海﨑悠、繁治亮依のLB3年生コンビは運動量豊富。ラン、パス共にバランスよく守れる海﨑に対し、繁治はLOSに対して直線的にスピードを発揮し、鋭くボールキャリアを捉える。ニッケルバック北川太陽(2年)は、幼少の頃から富士通グラッグフットボールチームでプレーしており、いい意味での遊び心を持ったプレーができる。WJB後半開始時のオンサイドキックリカバーは象徴的だった。

フロントに人材を揃えている一方で、昨年からの先発が副将SF畑中皓貴(4年)一人のみのDB陣は、当初不安の残るユニットだった。しかし、WJBでインターセプトを記録したSF松本紘輔(4年)、CB竹原虎ノ助、ラグビー出身のSF宮城日向の2年生コンビなどが頭角をあらわし、アグレッシブなユニットに仕上がってきた。

関東大学リーグナンバーワンパッサーのQB柴崎哲平と、リーディングレシーバーのWRブレナン翼(共に4年)のホットラインを擁する早稲田攻撃に対し、DB陣がどんな方法で対抗するかは、関学大守備の見どころになるだろう。

■変革に取り組んだ早稲田大

過去5度、甲子園ボウル出場を果たしながら、未だ日本一の栄冠にたどり着いていない早稲田は、今までの取り組みをすべて見直すところから始めたシーズンだった。これまでの「自分たちのやり方を信じてやりきれば勝てる」という考え方を繰り返していても、出る結果は同じ。ならばやり方自体を変えなければならない、という発想から、戦術的な面はもちろん、身体作りの方法、期間にいたるまで甲子園で勝利できるチームを目指して変革に取り組んだ。

当初は結果が残らなかった。春季オープン戦では立教大に1点差で薄氷の勝利、明治大、中央大には敗戦を喫した。目の前の結果に、自分たちの選択が果たして正解なのか不安に駆られることもあったが、それでも貫き通した。その結果はリーグ戦に表れた。

早稲田攻撃の最大の武器は、関東リーディングパッサーのQB柴崎哲平(4年)と、リーディングレシーバーのWRブレナン翼(4年)のホットラインだが、勝負どころに強いWR小貫哲(3年)、スピード派の伊藤裕也(4年)も、柴崎が信頼を置くレシーバーへと成長を遂げた。

大きく改善されたのはラン攻撃だ。昨年から刷新したRB陣だが、春から経験を積んだRB広川耕大(3年)、吉澤祥(2年)が主戦に成長。さらにシーズン中盤戦からスピードが武器の荒巻俊介(3年)、インサイドを力強く走れる中野玲士(4年)も調子を上げてきている。

甲子園ボウルでは、スピードのある関学大の守備フロントから柴崎を守れるかが焦点になる。T香取大勇(4年)、広瀬直紀(4年)、G玉嶋友彦(3年)、松林太毅(4年)、C橋口慶希(3年)のOLたちのパフォーマンスが、早稲田攻撃の成否を左右することになるだろう。

4-2と3-3-5を基本とする守備も、昨年の甲子園ボウルで関学大に敗戦を喫してから、コンセプトの共有と一つひとつのテクニックの見直しを図った。対戦相手の特徴によって、ブリッツで攻めることもゾーンで守ることもできる。

当初は経験不足が懸念されたDLだが、副将DL二村康介、ポジションリーダーの古田泰一(共に4年)を中心に、パシュートがしつこい亀掛川駿(3年)、スタートに爆発力がある永山開一(2年)らが中心選手として成長を遂げた。LBも1年時から出場している主将LB池田直人(4年)、リアクションスピードとインテリジェンスに優れた杉田直人(4年)、ハードヒッターの野城翔也(4年)と、個性の違う人材が噛み合っている。

DBは最も人材が充実している。守備の頭脳的役割の高岡拓稔(4年)、随一のアスリートSF大西郁也(3年)、早稲田実業野球部出身で、今季は2インターセプトを記録しているR渡辺大地(4年)、昨年から先発の高橋弘汰(3年)が主戦。課題だったCBも2016年U19日本代表の永井雄太(4年)と、今季2インターセプトを記録している山下大樹(4年)の活躍が目立っている。

いずれも昨年比で大きく体重を増やしているが、これは甲子園ボウルの関学大戦でフィジカルの差を痛感したことをきっかけにフィジカルアップに励んだ成果だ。

対関学大攻撃のポイントは、いかに関学のランを封じることができるかと、QB奥野をパニックに落とし入れることができるかだ。フロントのプレッシャーでランを封じ、QB奥野を慌てさせてボールを奪うというのが、早稲田守備のベストシナリオだ。

記事;

上村弘文(月刊ハドルマガジン) https://huddlemagazine.jp/

増刊号 https://www.fujisan.co.jp/product/1281696257/

写真;早稲田スポーツ新聞会 http://wasedasports.com/

P-TALK    http://www.p-talk.jp/

編集; 畠中隆好(甲子園ボウルPJT)