試合後の取材で「最後の甲子園ボウルを勝利で飾ることができましたがいかがですか」という記者の質問にも「普通です。主役は学生やから」と答えた関西学院大学の鳥内秀晃監督。その主役たちは、早稲田大学を38-28で下し、鳥内監督に12回目の学生日本一を届け、チームとしても2年連続30回目の甲子園ボウル優勝を果たした。
「早稲田は底力があるので、頑張って耐えて第4Q勝負になる」と、試合前から想定していた通り、20‐14とリードして前半を折り返したものの、第3Q14分28秒にパスでTDを奪われ、27-28と逆転を許してしまう。早稲田の押せ押せムードに、スタンドには「鳥内監督、最後の甲子園は黒星か」という不穏な空気も漂ったが、そんな心配は全く無用だった。

自陣41ヤードからのオフェンスを、QB#3奥野(3年)が、RB#21三宅や、TE#90小林(1年)へのパス、また、RB#26前田(公)のランなどでTDを奪う。

さらにトライフォーポイントも「あの場面は(2点コンバージョンに)行くのが普通」(鳥内監督)と、右サイドに選手を集め、エースRB三宅を左オープンに走らせる大胆なプレーで成功させ、35-28とリードを再び奪うことに成功した。

その第4Q、ディフェンスは早稲田オフェンスを2シリーズ続けて4回の攻撃に封じ込める。FGを決め、38-28とリードを広げた直後の早稲田オフェンスもしっかり無失点で抑え勝負を決めた。まさに“第4Q勝負”という監督の指示を、肝に銘じて戦った4年生がつかみ取った勝利だった。

関学大史上初の女性主務として、チームを支えてきた橋本典子(4年)は「リーグ戦で立命館に負けてからの1カ月は、負けたチームにしか気づけないものを見つけた。勝ち続けていては気づけないことで、すべての結果に意味があるとチームで意識した」と話す。また鳥内監督が、最後の指導を行う一年だったことについては「監督が“俺のためにやるんとちゃう”と話してくれたので、あくまで自分たちがどうしたいか」と、考え続けることができたそうだ。

また、この日2本のTDを奪ったRB前田は、第2節の龍谷大戦で負傷し、4週間全く動けず。第6節の関西大戦で復帰を果たしたものの、ボールキャリーの機会はごくわずかで、この甲子園ボウルが久々の本格出場。10回のキャリー、119ヤードを稼ぎ出した。鳥内監督も「前田は能力のある選手やけど、故障で試合に出れてへんかった。今日はやってやろうと思って走ったんとちゃう?」とその実力を評価。前田自身も「ケガをしたことで、アサイメントや頭の整理に取り組むことができた。復帰したら試してみようとイメージしたりもした」と、こちらもケガをしたことも意味があったと、甲子園の大舞台で証明して見せた。

セレモニー終了後、選手やスタッフが集まって記念写真を撮影する場へ、寺岡主将が鳥内監督を招きいれた。この記念写真に監督が参加するのは「10なん年ぶりぐらいちゃう?」とのこと。笑顔でトロフィーを手にして写真撮影に応じたが、「呼ばれたから行っただけ。あそこは笑顔やなかったらおかしいやろ。最近は呼ばれてへんから行かへんかっただけ」と鳥内監督。ただ、あの笑顔を見るために毎年頑張ってきたことだけは間違いなく、この精神は次の指導者にもひき継がれるのだろう。


「ここで何回も勝たせてもろうてありがたい」。「今はホッとしている」と、いつもの感想。鳥内監督から最後の最後まで、自らの最後の甲子園ボウルについてのコメントは聞くことができなかった。

28年にも及ぶ常勝チームの監督生活について「永遠に勝てない相手と分かっていても、負けたら様々な雑音を食らう。これらを監督はうまくさばかないといけない」と、甲子園ボウル出場を決めた直後に話していたが、試合後、「次、やるヤツは大変やろな」と、ボソッと一言。名将の指揮も残すところライスボウル1試合。2002年以来となる2度目の完全制覇を目指す。

記事;江田政亮(スポーツライター)
写真;松島健悟  (Pump Up 学生アメフト)
編集;畠中隆好(甲子園ボウルPJT)