届かなかった、でもきっと記憶には残り続ける―――。

今年で74回を迎えた毎日甲子園ボウル。2年連続6度目となる出場を果たした早稲田は、創部史上初の「学生日本一」を懸け、関西の雄・関学大との一戦に挑んだ。

昨年と同じ顔合わせとなった対戦は、両者譲らぬ展開の中、第3QにWRブレナン翼(4年)のこの日3つ目となるTDで早稲田が逆転。逃げ切りを図ったが、今回で53回目の出場となる関西王者の執念の前に第4Qで再度逆転を許し、28-38で聖地6度目の敗戦となった。

早稲田のキックオフで試合開始。関学大最初の攻撃をFG、2度目の攻撃をパントに抑えるなど、ディフェンス陣が上々の滑り出しを見せる。

これに負けじと、普段はスロースターターなオフェンス陣もこの日は序盤からギア全開。RB荒巻俊介(3年)のランプレーでダウンを更新すると。WRブレナンが短いパスを捕球後に、相手ディフェンスを2人かわし一気に敵陣のレッドゾーンへ。

最後はQB吉村優(3年)が、タックルを受けながらも持ち前のフィジカルを活かした走りでエンドゾーンに押し込み逆転に成功する。

一気に流れに乗りたい早稲田であったが、強力な関学大OL陣の前にDL陣がラッシュしきれず。昨年度、年間最優秀選手にも選ばれたQB奥野耕世からWR阿部拓朗のホットラインに2つのTDを奪われ追う展開に。

突き放されまいと、早稲田もQB柴崎哲平(4年)からWRブレナンへのホットラインが55ヤードのTDパスを決め。追い上げる。

直後のオンサイドキックは失敗に終わったが、強気の攻めを見せつけ14-20の1本差以内で前半を終える。

攻めの姿勢を緩めない早稲田は、後半最初の攻撃で、パント体型からスペシャルプレーを仕掛ける。しかし、プレーの選択に時間がかかったこともあり、関学大に冷静に対処され不発に。

関学大が有利なフィールドポジションからの攻撃。早稲田ディフェンスは攻守交替の隙を突かれ、ランで一発TDを献上。後半開始早々失点を許す展開となり、チーム内に嫌な雰囲気が流れ出す。

サイドラインにも不安が立ち込める中、暗雲を切り裂いたのは早稲田の『翼』だった。

失点直後のキックオフリターンで味方のブロックの間をすり抜けると、長身を生かした長いスライドの走りで一気に敵陣まで侵攻。

続くオフェンスでは、QB柴崎の浮かせたパスを相手ディフェンス2人に競り勝ち、エンドゾーン右隅ギリギリでキャッチ。「何人カバーされても決まる」(柴崎)ブレナンにしか取れないゾーンでのTDパスで、再び6点差に詰め寄る。

エースの立て続けのビッグプレーでモメンタムをつかんだ早稲田は、関学大にプレッシャーをかけ、FGを決めさせない。

RB吉澤祥(2年)が、OLの作ったわずかな隙間を突破し敵陣に走り込むと、QB柴崎が関学大ディフェンスのラッシュをかいくぐり、RB高瀬滉平(4年)へパスを通し攻め立てる。

最後はまたしても、QB柴崎がWRブレナンへパスを決め、追いかけるディフェンスを振り切り同点のTD。

「今年一番高い完成度だった」と、ブレナンと柴崎のホットラインで。甲子園ボウルの一試合最多TD記録に並ぶ3つ目のTDを奪ってみせた。K/P髙坂將太(3年)がTFPのキックを沈め、逆転に成功。第3Q終盤での逆転劇に、早稲田スタンドもこの日一番の盛りあがりを見せた。

ようやくの逆転劇に、「ホッとしてしまった」と柴崎が語るように、チーム内にほんの少しだけ気の緩みが出てしまった。

関東での戦いであればそのまま逃げ切れたかもしれない。しかし、幾多の死闘を勝ち進んできた歴戦の猛者は、その隙を見逃してはくれなかった。

関学大陣20ヤード付近からの攻撃で、ランを中心にゴール前まで進まれると、RB前田公昭のダイブでTDを奪われる。2ポイントコンバージョンもあっさり決められると、次の関学大オフェンスシリーズでも、FGを奪われ10点差に。

残り時間少ない中で4thダウンギャンブルに出た早稲田は、運命の1プレーを、一年間チームをけん引し続けてきた柴崎とブレナンに託す。誰もが固唾を飲んで見守るなか、柴崎から鋭いパスが放たれる。

勝利への望みをかけた一球。しかし、ボールはブレナンの手に収まることなく、無情にも地面に叩きつけられた。

最後まで攻める姿勢を見せ続けた早稲田であったが、ここで万事休す。28ー38の敗戦を喫し、またしても頂点に届くことはなかった。

「自分としてもチームとしてもやり切った感はある」と、主将LB池田直人(4年)。

1年間切磋琢磨しながら作り上げてきたBIG BEARSの集大成を存分に発揮した一戦であった。

試合後半での逆転劇に、誰もが日本一への扉が開きかける瞬間を見た。ただ、関学大は強かった。今回で30回目の学生王者となった青の戦士たちには、積み重ねてきた勝利の蓄積から来る余裕があった。

「6回出て、6回とも敗れてしまいました」(高岡勝監督)。まだ届かぬ日本一の景色。『闘志』溢れる4年生の示した聖地での勝利への道程は、きっと見えていたはずだ。残った下級生が、その道をどのように進んでいくのか。早稲田BIG BEARSの行末を、これからも見届けてほしい。

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記事:涌井統矢(早稲田スポーツ新聞会)
編集;畠中隆好(甲子園ボウルPJT)